Article Title
コロナショックで陥りやすい投資家の非合理的な行動
田中 純平
2020/04/03

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今回のコロナショックによる米国株式市場の下落は前例の無い「スピード調整」になったことから、多くの投資家が株式の売却タイミングを逸してしまったと推測される。人は損失が拡大したときに非合理的な行動を取る傾向にあるため、自分が気づかないうちに過度なリスクを取っていないか、いま一度ポートフォリオを見直す必要があるだろう。



Article Body Text

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

これは鉄血宰相と呼ばれたオットー・フォン・ビスマルクの言葉だ。直訳は、「愚者は自分の経験から学ぶと言うが、私はむしろ他人の経験から学ぶのを好む」であり、こちらのほうが意味が分かりやすい。この言わば「他人の経験」を体系づけた経済理論が「行動ファイナンス」の世界である。一般的な経済理論では人は常に合理的な行動を取るという前提に立っているが、行動ファイナンスでは人は必ずしも合理的な行動を取らず、時として非合理的だとする。例えば行動ファイナンスの分野で明かされたものに「損失回避」と「反転効果」がある。「損失回避」とは、10万円の利益から得る喜びよりも10万円の損失から得る悲しみ(悔しさ)のほうが大きい、という現象を指す。そして、利益が出ているときにはリスクを抑え、損失が出ているときにはリスクを引き上げる現象を「反転効果」と呼ぶ。つまり、投資で損失が出てしまった人が、(悔しいので)一発逆転を狙ってリスクの高い資産に投資する行動を指している。これは行動ファイナンスの分野では非合理的な投資行動になる。なぜなら、利益が出ていようが損失が出ていようが、本来であれば(他の条件が一定と仮定した場合)リスクの取り方に違いは出ないはずだからだ。むしろ、当初の予想に反して「ファンダメンタルズ」が悪化しているのであれば、リスクを抑える投資行動が必要だ。

 

 

コロナショックで損失が出た投資家はどうすれば良いか?

最も重要なのは感情的にならないことだ。損失が出たからといって、従来以上にリスクを取って損失を挽回しようとすることは避けるべきだ。また、利益が出ているリスクの低い資産を売却し、損失が出ているリスクの高い投資資産を塩漬けにすることも避けたい。それは、ポートフォリオ全体のリスクを間接的に引き上げていることになるからだ。むしろ、(事前にリスクを下げていなかった投資家は)ここからは二番底の可能性に備えてポートフォリオ全体のリスクを抑える局面と考えるべきだ。実体経済の悪化がデータとして顕著に表れてくるのはこれからだ。新型コロナウイルスの感染終息の目途が立たない状況であれば尚更だ。今回のコロナショックは供給ショック、需要ショックだけにとどまらず、金融ショックにまで発展するリスクがある。FRB(米国連邦準備制度理事会)による流動性供給や米国連邦政府による大規模な景気対策が打ち出されているが、金融ストレスの状況を示すLIBOR-OISスプレッドは依然として高水準にある。企業活動の停止を余儀なくされた企業の体力は消耗していく一方で、感染拡大が長期化すれはやがては金融機関からの貸出が不良債権化してしまうリスクがある。そうなれば信用収縮の連鎖が広がるだろう。今は積極的にリスクを取りに行く局面ではない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


不安定さを増す石破政権

金と株式の組み合わせのもたらす運用効率の向上

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

新政権の「投資大国」は資産・消費の好循環を生み出せるか

解散・総選挙とマーケット

中国、一連の経済対策の効果は期待できるのか?