Article Title
米国株式市場 ITバブル期に迫る株価指標
田中 純平
2020/05/22

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今回のコロナ危機によってS&P500指数構成企業のコンセンサス予想EPSは、過去最高値をつけた今年2月19日時点の$177.63から5月21日時点の$140.32まで21.0%も下方修正された。しかし、その期間のS&P500指数は12.9%の下落にとどまったため、コンセンサス予想PERは19.1倍から21.0倍まで拡大し、ITバブル期に迫る水準となった。



Article Body Text

株価とEPSの強い相関を崩したものは?

戦後最悪と言われるコロナ危機を受けて、アナリストは企業の業績見通しを大幅に下方修正させた。S&P500と予想EPS(一株あたり利益、12ヶ月先)の約30年の相関係数は0.95と非常に強い相関があるため、大幅に下方修正されたEPSに連動して、株価も大きく値下がりしても不思議ではなかった。しかし、その強力な相関を崩したのはFRB(米連邦準備制度理事会)だった。FRBは今年3月に2度の緊急利下げを実施し、さらに無制限の量的緩和と大規模な流動性供給を矢継ぎ早に行ったため、株式のようなリスク資産が3月23日以降、大きく値を戻したと考えられる。無論、主要国で新型コロナの感染拡大が鈍化傾向になり、経済活動再開に向けた道筋が見えてきたことも株高の要因として挙げられるが、予想EPSが明確な底打ちを示さない状況下での株高は、FRBのイージー・マネー(潤沢な資金供給)の賜物に他ならない。「FRBには逆らうな」という相場格言どおりの結果になったわけだ。

 

 

しかし、FRBも万能ではない

今回のように高水準にあった予想PER(株価収益率、12ヶ月先)がさらに拡大した局面が1998年後半にあった。このときはLTCM危機の沈静化を図るため、FRBが98年9月~11月にかけて3度の利下げを行ったタイミングだった。当時の予想EPSは横ばい~減少していたが、FRBの金融緩和を受けてS&P500指数の予想PERは98年8月末時点の18.0倍から98年12月末時点には24.8倍まで拡大し、その後はITバブルへ突入した。LTCM危機とコロナ危機は経済ショックの性質やそのマグニチュードの点で大きく異なるが、FRBの金融緩和が予想PERをさらに拡大させた点では不気味に共通する。LTCM危機の沈静化を目的とした金融政策が、のちにITバブルとその崩壊を招いたことはじつに皮肉だ。新型コロナの第2波や米中対立がリスク要因としてくすぶる中、足元の割高な予想PERがさらに状況を悪化させないか、今後も注視していく必要があるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


岸田政権による次の重点政策

議事要旨に垣間見る、QTのこれまでと今後

米国の長期金利に上昇余地

原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動