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安倍政権の終わりの始まり!?
市川 眞一
2020/05/22

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概要

安倍内閣は、国家公務員法等改正案の今通常国会での成立を断念した。法案に含まれる検察庁法改正案に世論の批判が強まったからだ。2020年度補正予算の一律給付金に続く土壇場の方向転換で、安倍晋三首相の指導力に陰りが生じたと言えよう。同首相は、9月新学年制度の導入などを大義名分に年内の解散・総選挙を実施、巻き返しを図る意向なのではないか。



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検察庁法改正案:何が問題だったのか

検察庁法改正案がSNSを含む世論の反発を生んだのは、検事総長などの役職定年に関し、3年間の延長を可能とする部分だろう。法改正により、人事を通じて司法に対する政治介入の可能性を指摘する声は少なくないようだ。

もっとも、この検察庁法改正案は、「人生100年時代」の下、年金制度改革と連動した国家公務員の定年延長の一環だ。従って、検察庁法改正案における役職者の定年延長は、国家公務員法改正案との整合性を意識したものになっている。主な違いは、定年延長の要件について、国家公務員法が「人事院の承認」としたのに対し、検察庁法改正案は「内閣の定めるところ」とした点だ。これは、検察庁の歴史的経緯による判断で、政府に特段の意図はなかったと見られる。

そもそも、検察庁は内閣総理大臣を頂点とする行政府の一組織で、検察庁法により検事総長、次長検事、検事長の任命権者は現行規定でも内閣に他ならない。また、法務大臣は、個別事案に関しても検事総長への指揮権を有している。つまり、検察庁に対する政治側の権限を強化するため、敢えて検察庁法を改正する理由は見当たらない。

新型コロナウイルスによる経済の失速を受け、4月30日に2020年度補正予算が成立したが、この時も土壇場で公明党が国民一律10万円の給付を主張、安倍内閣は国会への補正予算再提出に追い込まれた。検察庁法改正に関する批判が誤解に基づくものだとしても、同じ国会で2度目の方向転換である上、法改正とは無関係にせよ、1月に定年を延長した黒川弘務東京高検検事長が辞任した。安倍首相のリーダーシップには大きなダメージと言えよう。

 

解散総選挙:依然として年内の可能性が高い

NHKが5月15~17日に実施した世論調査によれば、安倍内閣の支持率は前月比2ポイント低下の37%、不支持率は7ポイント上昇の45%になった(図表)。2018年6月以来、約2年ぶりに支持率と不支持率が逆転した背景には、検察庁法改正案への世論の反発と見られる。

一方、衆議院の任期満了は2021年10月であり、政権与党にとっては、年内の総選挙が望ましい。過去の例から見ると、任期が1年を切って行われた総選挙では、政権与党が過半数割れする確率が高かったからだ。

国家公務員法等改正案の成立を断念した安倍首相は、早期に2020年度第2次補正予算を編成、6月17日に会期末を迎える今通常国会中の成立を目指すだろう。その上で、秋の臨時国会へ向け態勢の立て直しを図る見込みだ。

先述のNHKの世論調査では、自民党の支持率は31.7%と高い水準を維持、野党第1党である立憲民主党の4.7%を大きく引き離している。安倍首相は、このリードを維持したまま、秋の臨時国会の終盤における衆議院の解散、年末の総選挙を視野に入れているのではないか。

そこで重要な意味を持つのが、9月新学年制度である。4月新学年制は、明治期以来の伝統だ。2021年9月から新制度への移行を目指すとすれば、それは国民に信を問うための大義名分としては十分だろう。

2020年度補正予算案の再提出、国家公務員法等改正案の成立断念で、安倍首相のリーダーシップは大きく傷付いた。来年9月の自民党総裁任期で退任するにしても、早期のレームダック化を回避し、キングメーカーを目指す上で、総選挙において勝利することが重要だ。それは、安倍政権が総仕上げの段階に入ったことを意味するだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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