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パウエルFRB議長講演と安倍首相辞任で埋もれた好材料
田中 純平
2020/09/01

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概要

8月27日にオンライン形式で開催されたジャクソンホール会議で、パウエルFRB議長は2%超のインフレを容認する新たな指針を発表した。そして、その翌日には安倍首相の突然の辞任報道があった。マーケットはこの2大ニュースの話題で持ちきりだったが、実はその陰に埋もれてしまったある重要な好材料が発表されていた。それは米アボット社が開発した新型コロナ検査キットだ。



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今までとは違う新型コロナ検査キット

米医療機器大手のアボット・ラボラトリーズ(以下、アボット社)は26日引け後、新型コロナウイルスの検査キット「BinaxNOW」が米国でFDA(米食品医薬品局)よりEUA(緊急使用許可)を受けたと発表した。鼻の粘膜を採取することで簡易診断する「抗原検査キット」であり、ラテラルフローと呼ばれる技術が使用されている(自宅での妊娠検査の手法と似ている)。

特に画期的なのはコスト面だ。販売価格は1個当たりわずか5ドルで、他の検査キットのように大掛かりな検査装置も必要としない。検査結果も15分ほどで判明する。また、真の陽性率を示す感度は97.1%、真の陰性率を示す特異度は98.5%と、比較的精度が高いことも特徴のひとつだ。

さらに、アボット社は「Navica」というモバイルアプリを開発し、検査キットの結果をモバイルアプリに紐付ける計画だ。検査結果が陰性であることをモバイル・アプリが証明すれば、「デジタル搭乗券」のような利用方法が可能になるという。

 

 

米国政府は年内生産予定の検査キットをほぼ全て買い切る

このアボット社の新型コロナ検査キット「BinaxNOW」が発表された翌日、米国政府は年内生産予定の1億5,000万個を7億6,000万ドルで購入すると発表した。アボット社は10月までに月5,000万個の生産体制を構築する方針を示していたことから、米国政府は年内の生産分をほぼ全て購入することになる。

The COVID Tracking Projectによれば、米国はピーク時に1日約80万件の新型コロナ検査を実施していたため、(単純計算ではあるが)「BinaxNOW」によって検査数は倍増することになる。

 

 

「BinaxNOW」がもたらすインパクトは大きい

「BinaxNOW」によって、米国は大規模な都市封鎖を回避しながら、経済活動の再開を進めることが可能になるかもしれない。もちろん、新型コロナウイルスの終息にはワクチン開発が欠かせないわけだが、短時間で検査結果が判明する安価で精度が高い新型コロナ検査キットが普及し、その検査結果をモバイルアプリと連携させることが可能になるのであれば、大規模なイベント開催や、レストランやホテル、公共交通機関の利用、学校の再開などを促進させることができるかもしれない。株式市場はFRB(米連邦準備制度理事会)による金融緩和の長期化という支援材料に加えて、画期的な新型コロナ検査キットの承認という新たな好材料を得た可能性がある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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