Article Title
NASDAQへのテクニカルな懸念
市川 眞一
2020/09/11

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

新型コロナ禍による社会のリモート化への観測は、株式市場において関連銘柄の株価を押し上げてきた。これに、主要中央銀行の金融緩和が大きく作用し、米国ではNASDAQ指数が市場最高値を更新したのであろう。ただし、ソフトバンクグループ(SBG)のオプション取引に関する報道は、目先、市場の流れを変化させる可能性があるのではないか。



Article Body Text

NASDAQ市場最高値:背景にデリバティブ取引か!?

NASDAQ総合指数が最高値を記録した9月2日、S&P500で割った倍率は3.37倍となり、ITバブルのピークであった2000年3月3日の3.49倍に接近した(図表1)。新型コロナ禍による社会のリモート化への観測から、関連するIT系銘柄などが集中的に物色された結果だろう。また、FRBによるゼロ金利政策と量的緩和の組み合わせは、伝統的なバリュエーション評価に基づく警戒感を大きく緩和したようだ。

もっとも、一部の報道により、別の株価上昇要因が浮かび上がっている。9月4日付けのウォールストリートジャーナルは、SBGが、8月以降、アマゾン、ネットフリックス、マイクロソフトなど合計で40億ドル近くの現物株を購入したことに加え、関係者の話として、それらの銘柄のコールオプション(CO)を買ったこと、さらに行使価格の高いCOを売ったことを報じた。このCOの売り買いの組み合わせは、デビット・スプレッドと言われる複雑な取引手法だ(図表2)。

COの購入ならば、本源的資産の価格変動に関わらず、原則としてプレミアム(保険料)の支払い以外の損失は発生しない。ただし、相対取引の場合、一般に引き受け手(COの売り手)は損失のリスクが無限になるため、当該銘柄を保有することでなどでヘッジする傾向がある。従って、大口のCOの購入は、ポジションの組成時に現物の価格を押し上げる可能性が指摘できるだろう。

 

破られた秘匿性:様々な思惑によるインパクトに注意

あくまで一般論だが、逆の状況も起こり得る。つまり、何らかの事情で当該銘柄の価格が下がると、ある水準でCOの引き受け手はヘッジ取引をアンワインド(解消)するため、保有する現物を売却する可能性が強い。それが、当該銘柄の値下がりを加速させることがあり得るだろう。

また、COの売り手と買い手のポジションが第三者に見えた場合、COの引き受け手による現物の売却を予測し、先回りして当該銘柄を売る動きが出るケースも想定しなければならない。その結果、ポジションの解消が進むまで、マーケットの撹乱要因としてボラティリティを高める可能性があるわけだ。

そもそも、デリィバティブを活用した取引は、規模が大きくなると出口の方法は非常に難しい。また、逆手を獲られないためには、情報の秘匿性が極めて重要だ。

SBGによる現物・オプション取引の件だが、フィナンシャルタイムズによれば、同社の社内にはこのトレードに関し批判的な意見もあるらしい。あくまでこれらの記事を前提とした場合だが、COの買いは損失がプレミアムに限定されるとは言え、その額が40億ドル(4,200億円)に達するとすれば、確かに関係者の間で様々な見方があっても不思議ではない。

いずれにせよ、この現物とデリバティブ両方のポジションがある間、市場の撹乱要因となる可能性が強いだろう。市場の内部要因として、米国の長期金利の動きと共に、目先、目が離せない事象と言えそうだ。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


岸田政権による次の重点政策

議事要旨に垣間見る、QTのこれまでと今後

米国の長期金利に上昇余地

原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動