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- 米問題と参議院選挙
江藤拓前農水相が失言で実質的に更迭され、小泉進次郎元環境相が農水大臣に就任した。米の価格高騰は物価押し上げ要因であり、参議院選挙を控えた石破政権にとって喫緊の課題だ。小泉新農水相は、随意契約による政府備蓄米の放出に踏み切った。中長期的な課題は、政府による事実上の減反政策から脱却し、強い農業を育てることで、内外価格差を縮小できるかだろう。
■ 参院選を控えた石破政権の焦り
4月の消費者物価統計によれば、米類は前年同月比98.4%上昇、消費者物価を0.6%ポイント押し上げた(図表1)。米価の高騰は明らかなインフレ要因であり、7月20日に予定される参院選を前に、石破政権にとって頭の痛い問題だろう。
米が不足した背景には、政府の政策の限界があるのではないか。1995年に食糧管理法、2018年には減反政策が廃止された。しかし、毎年、農水省が米の適正生産水準を公表、水田活用直接支払交付金(2025年度2,760億円)を他の作物へ転作する農家へ支払ってきたことで、実質的な減反政策、価格管理政策が続いている。
2024年3月、農水省が示した2023/24年(2023年11月~2024年10月)における主食用米の需要は681万トンだったが、実際は705万トンに達した(図表2)。供給サイドにおいても、669万トンの生産想定が、661万トンに止まっている。昨年6月の時点で民間在庫が153万トンあり、本来、その取り崩しで需給を安定化できるはずだったが、出荷、流通、消費者の各段階で在庫の積み増しが起こり、機能しなかったのではないか。
さらに、3回の政府備蓄米の入札で94.8%を落札した全国農業協同組合連合会(JA全農)は、精米、運送に滞り、放出米を円滑に流通ルートへ乗せることが出来ていない。小泉新農水相が大手流通各社への随意契約に踏み切ったのは、既存の枠組みでは、価格抑制の効果が薄いことへの石破政権の焦りを反映していると見られる。
■ 抜本改革は参議院選後か?
政府備蓄米は、毎年20万トン、5年間で計100万トンをメドとしており、6年目には飼料用として売却される。入札、随意契約で60万トン以上が放出されるため、残りは40万トンを切るだろう。無限ではないだけに、価格抑制効果を懸念する声もある。
その際、有効なのは輸入の拡大だ。GATTウルグアイラウンドに沿い、年間77万トンはミニマムアクセスとして無税で輸入しているが、それを超えると1㎏341円、5㎏で1.705円の重い関税が課される。米の内外価格差は大きいだけに、関税を下げれば、輸入量は急増する可能性が強い(図表3)。
与党にとって問題は参院選だ。過去10回のうち、自民党の議席獲得率が最低だったのは、2007年7月の30.6%だ(図表4)。この時は、23あった選挙区の1人区において、自民党は6議席しか得られず、それが大敗の要因と言われている。
今回の参議院選挙では、改選定数124議席のうち、32議席が1人区において選出され、その結果が選挙全体の勝敗を大きく左右する可能性は高い。いずれも農業の盛んな地域であり、米の輸入拡大には拒否反応が強いだろう。石破政権としては、参院選前は備蓄米の放出で米の価格を下げ、消費者心理の好転を図る一方、米の輸入拡大は封印すると見られる。
ただし、「令和の米騒動」により、安定供給を目指した現在の米に関する制度は、円滑に機能しないことが明らかになった。参院選後、実質的な価格管理から、欧州などで一般的な農家への所得補償へ移行、輸入米と価格競争できる農業の育成へ向け、農政の舵が切られることも考えられる。
目先に関しては、随意契約による備蓄米の放出が奏功すれば、インフレの抑制要因になるだろう。その場合、日本の実質金利が上昇して日米間の実質金利差が縮小することから、円高方向へのバイアスとなる可能性があるのではないか。
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