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米中対立は次のステージへ
市川 眞一
2020/10/23

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概要

米国大統領選挙において、主な論点は新型コロナ対策と景気になっている模様だ。しかし、選挙の季節が終われば、米中関係は新たなステージへ移行するのではないか。選挙結果に関わらず、両国の構造的対立は深まると見られる。ただ、トランプ大統領続投なら、通商問題がより重視されるだろう。一方、バイデン氏が勝った場合、通商以上に人権や安全保障が軸になりそうだ。



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トランプ政権の対中政策:貿易不均衡から将来の覇権争いに拡大

トランプ大統領は、2016年の大統領選挙で対中貿易不均衡の是正を政策の柱に据えた。この攻撃の矛先は当時の北米自由貿易協定(NAFTA)や日本、韓国などにも向いていたが、金額ベースの影響力で見れば中国が圧倒的なターゲットであったことは言うまでもない。2018年7月、トランプ政権は自動車、産業用ロボットなど340億ドル分の輸入を対象に、第1弾の対中制裁関税を発動した(図表)。

その後、米国は、第2弾、第3弾、第4弾と対中制裁を強化したが、昨年12月13日に両国の通商交渉が決着、9月に課した第4弾の関税15%を7.5%へ引き下げ、追加の政策を見送っている。この合意はあくまで第1段階とされ、第1〜第3弾の制裁関税はそのまま据え置かれた。

しかし、今年に入って米中関係が急激な悪化を見せたのには、2つの背景があるのではないか。

1つ目は、中国の情報通信産業による技術開発に対して、米国が非常に神経質になったことだ。このなかには、機密情報流出や知的財産保護などの問題が含まれる。最初の動きは、2018年4月、ZTEに課した米国企業との取引を禁じる制裁措置だったが、後に対象はファーウェイなどへ広がった。

2つ目は、中国の武漢市が発生源と見られる新型コロナウイルスが米国に飛び火したことだろう。主要都市のロックダウンを経て米国景気が失速、この問題へのトランプ政権の対応は大統領選挙の主要な争点となった。

トランプ大統領は、中国への批判の軸を通商から多方面へと拡大させ、最早、将来の覇権争いの感が強まっている。

 

 

これからの米中関係:構造的な対立の時代へ突入

米国連邦議会においては、党派を問わず対中強硬論が大勢となっている。それは、IT技術に加え、香港やチベット自治区などでの人権問題、安全保障について、中国への懸念が拡大しているからだろう。大統領及び上下院議員選挙の結果に関わらず、この流れが大きく変わることはなさそうだ。

もっとも、トランプ大統領が再選された場合、米国の最大の関心事は再び貿易不均衡にシフトすると予想される。そのケースでは、通商問題で譲歩することにより、中国はトランプ政権との妥協を模索するのではないか。

一方、ジョー・バイデン前副大統領が勝利すれば、通商摩擦は緩和されるのではないか。バイデン氏は、米国の消費者が実質的な担税者となるため、関税による対中政策を「時代遅れ」として厳しく批判してきた。

もっとも、テクノロジーや人権問題、安全保障に関しては、バイデン氏の対中政策はより厳しいものになる可能性が強い。上院外交委員長を4年務めた同氏の場合、外交・安全保障に関しては価値観を重視、同盟国との協力関係を再構築することで、対中包囲網を目指すことが予想される。ファーウェイなどに対する制裁が続き、香港問題などでも米国が中国を批判するケースが増えるだろう。

これに対し、中国も基本的に強硬な姿勢を崩さないと見られる。米国へ妥協的な対応をすれば、習近平国家主席の指導力に陰りが生じかねないからだ。

米中は構造的な対立の時代に入ったと言える。この先の投資に関しては、それを前提に戦略を考える必要があるだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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