Article Title
米テキサス州の大停電で風力発電がやり玉にあがる「矛盾」
田中 純平
2021/02/22

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米国南部を中心とした記録的な大寒波によって、テキサス州では2月15日未明から大規模な停電が発生した。影響は広範にわたっており、自動車や半導体、原油など相次いで生産休止に追い込まれた。停電は氷点下での稼動を想定していなかった発電設備の稼動停止が背景にあったわけだが、テキサス州知事は風力発電が停電の原因だと非難した。



Article Body Text

大寒波の発生は「気候変動」が背景にあると指摘する専門家は多い

米国南部を襲った今回の記録的な大寒波は、北極にある極渦(北極を覆う冷気)がジェット気流の乱れによって、テキサス州まで蛇行したことによって発生したと報道されている。このジェット気流の乱れをもたらした要因が、温暖化だと指摘する専門家は多い。つまり、仮に今回の大寒波の原因が気候変動にあるとするならば、化石燃料による発電から風力発電や太陽光発電といったクリーン・エネルギーへ転換させ、温暖化の要因である二酸化炭素の排出量を抑える必要があるわけだが、共和党所属のテキサス州知事は氷点下で稼動停止した風力発電を導入したことが停電につながったと非難した。ここに根本的な矛盾がある。

そもそも、風力発電は凍結防止装置など耐寒性を上げれば極寒の北欧でも稼動させることは可能だ。温暖なテキサス州だったからこそ、そのような対策が講じられなかったことは理解できるが、風力発電自体が停電の根本的原因では決してないのだ。

風力発電よりも天然ガス発電の稼動停止のほうが影響は大きかった

大寒波による影響で、風力発電だけでなく、天然ガスによる発電も停止を余儀なくされた。気温が急激に下がった結果、天然ガスを運ぶパイプラインが凍結したことなどが背景にある。テキサス州の電力系統を管理するERCOT(テキサス州電気信頼性評議会)によれば、大寒波によって失われた発電能力は、風力発電で15,000MW、天然ガス/石炭発電で30,000MWだった。明らかに化石燃料による停電の影響のほうが、風力発電よりも大きかったことが分かる。

さらにテキサス州独自の電力系統も被害を大きくした可能性がある。米国は大きく分けて3つの電力系統に分かれており、他州と電力を融通しない電力系統を運営するのはテキサス州のみだ。通常であれば、電力が一時的に不足すれば他州から電力を調達することも可能だったはずだが、連邦政府による管理を嫌うテキサス州の電力運営方針が災いした可能性がある。

石油産業が盛んなテキサス州で、脱炭素批判が今後高まる可能性は否めないが、もはやこの問題が「政争の具」と化していることは明らかだ。米国がパリ協定へ復帰した今、テキサス州での停電をきっかけに、米国全体の脱炭素戦略が撤回される可能性は極めて低いだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


最高値更新のS&P500均等加重指数が示唆するもの

読めない米国大統領選挙

いまはバブルなのか?米IPO市場からヒントを探る

小休止する米国のインフレ

マイナス金利解除後の金融政策

米株高の「資産効果」で個人消費は上振れか?