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アルケゴス 個別の問題? or 市場の問題?
市川 眞一
2021/04/02

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概要

米国の投資会社、アルケゴス・キャピタル・マネジメントの持つポジションが強制的に閉じられ、大手投資銀行が巨額の損失を計上する可能性が報じられた。最大の焦点は、これがアルケゴス個別の問題か、それとも市場全体の問題かだろう。当面、投資銀行は流動性リスクに敏感にならざるを得ないと考えられる。また、ジョー・バイデン政権が規制強化へ動くか否かも注目だ。



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FRB:金融政策は新たな段階へ

新型コロナ禍による金融市場の動揺を受け、昨春以降、FRBは歴史的な量的緩和を実施した。リーマンショック後のQE1~3によりFRBの資産規模は5年間で3兆6千億ドル増加したが、今回はわずか4ヶ月で3兆ドルを超える資金供給が行われている。(図表1)。この大胆な姿勢は、金融市場の安定に大きく貢献した。同時に市場のリスク許容度が大きく拡大し、資産価格を押し上げたと言えるだろう。

 

もっとも、新型コロナ禍による経済の落ち込みから立ち直りの局面にある米国経済の下、FRBのスタンスも転換期を迎えた可能性がある。景気の下支え・金融市場の混乱回避に専心していた状況から、資産バブルの抑制にも目配りが必要な局面となったのではないか。例えば、足下、S&P高利回り社債指数と10年国債の利回りの差は3.11%へ縮小、2019年の平均である4.14%を下回っている(図表2)。これは、社債市場の過熱感を示していると言えるだろう。

3月24日、上院銀行委員会において証言に立ったジェローム・パウェルFRB議長は、最近の長期金利の上昇に関する質問に答え、「マーケットの秩序だった調整により、米国経済の見通しをさらに明るくする」効果があると説明した。FRBは、引き続き景気に配慮した金融政策を継続する一方で、市場金利上昇による株価など資産価格の調整を静観するだけでなく、むしろ歓迎する姿勢を示したと言えるのではないか。

 

注目のポイント:投資銀行のデューデリと政権の規制

長期金利の上昇による資産価格の調整は、アルケゴスの信用リスクを浮き彫りにした。これが同ファンド固有の問題か、市場全体の問題なのかについては、もうしばらく状況の見極めが必要だろう。ただし、2007年8月におけるBNPパリバ系の3つのファンドの凍結が、実はリーマンショックへ至るサブプライム問題の入り口だったことは念頭に入れておくべきだ。

今後、注目されるポイントは2つある。第1には、投資銀行の内部において与信のデューデリジェンスが厳しくなり、資金繰りに行き詰まるファンドが続くリスクである。その場合、流動性の低い資産からの急速な資金逃避が起こり、局所的にはパニック売りの局面となる可能性がある。

第2には、ジョー・バイデン政権の動きだ。昨年の選挙を通じて、民主党は富の格差の是正と共に、市場の管理強化を訴えた。一部投資銀行の損失が報道されている範囲内であれば、経営の屋台骨が揺らぐことはないと見られる。ただし、金融市場におけるリスクが懸念される結果、政権がレバレッジなどについての規制強化へ動く可能性は否定できない。その場合、市場のリスク許容度はさらに低下するだろう。

今回の件がアルケゴス固有の問題であれば、早晩、市場は落ち着きを取り戻すはずだ。ただし、その見極めには少し時間を要する。当面、慎重な姿勢が求められるのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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