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注目された米7月CPI、関税の影響は強まらず
梅澤 利文
2025/08/14

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概要

米労働省が発表した7月のCPIは概ね市場予想並みで、インフレ加速懸念が後退した。コアCPIは前年同月比で市場予想を上回ったが、全体的な物価上昇率は緩やかだった。注目された関税の影響は限定的だった。特に家具当を除いた品目では価格上昇が見られなかった。関税の価格転嫁は時間をかけたプロセスのようだ。金融当局は物価動向に依然注意は必要ながら、年内利下げが適切と思われる。




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注目された7月の米CPIは市場予想並みで関税の影響は限定的だった

米労働省が8月12日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.7%上昇と、市場予想の2.8%上昇を下回り、6月から横ばいだった(図表1参照)。一方で、エネルギーと食品を除いたコア指数は3.1%上昇し、市場予想の3.0%上昇、6月の2.9%上昇を上回った。

短期的な動向を示す前月比の伸び率は0.2%上昇と市場予想通りで、6月の0.3%上昇を下回った。コアCPIは前月比で0.3%上昇と、こちらも市場予想通りの結果ながら前月の0.2%上昇を上回った。7月のCPIを受けて、10年国債利回りの変動は結局小幅にとどまったが、政策金利の動向を反映しやすい2年国債利回りは低下した。

7月米CPIを項目別にみると、関税の影響を受けやすい財が横ばいだった

注目された7月の米CPIを振り返ると、市場予想を上回ったのはコアCPIの前年同月比の伸びに限られた。他のCPIの伸びは市場予想並みにとどまり、インフレ加速懸念は後退した。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ再開期待を確認させる内容だったと見られるが、これを踏まえ今回のCPIを検討する。

7月CPIの伸びには関税の影響(物価押し上げ)は明確に示されなかった。総合CPIの前月比の伸び(7月は0.2%上昇)を、エネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分けて寄与度を見ると(図表2参照)、関税の影響が大きいとみられる財項目は前月比0.2%上昇と6月から横ばいだった。

項目別の押し下げ要因はエネルギーが前月のプラスからマイナス寄与に転じたことと、食品の寄与が前月のプラスから、今月はほぼゼロとなったことだ。エネルギーの7月の下落はガソリン価格の下落に加え、ガス価格も下落に転じたことなどを反映している。

反対にサービス項目は6月よりも寄与度が拡大し、7月の押し上げ要因となった。7月のサービスの伸びは前月比0.4%上昇と、6月の0.3%上昇を上回った。ただし、サービス項目の中身を見ると、再加速の勢いは乏しいと思われる。住居費は前月比0.2%上昇と前月から横ばいだった。一方で、サービスを押し上げた主な品目としては航空運賃や医療費、娯楽費などが挙げられる。

このうち、航空運賃は6月まで3ヵ月連続で前月比下落していた分、7月は前月比4.0%の急上昇と底打ちの反動という特殊要因と見られる。医療費は7月が前月比0.8%上昇と、比較的高水準だった6月の0.6%上昇をさらに上回った。ただし、歯科医療費が前月比2.6%上昇と突出するなど、特殊要因とも見られそうだ。

娯楽費の伸びは7月が0.4%上昇と6月の0.2%上昇を上回るが、変動の大きい品目でもあり持続性を見守る必要があろう。いずれにせよ、サービスを押し上げた品目の価格動向をみると、関税に関連するものは少ないようだ。

財の中で関税の影響を受けやすい品目も、物価に過熱感が見られない

7月の米CPIで注目度が高かった財項目は前月比で0.2%上昇と、6月から横ばいだった。財が注目された理由は関税の影響を受ける品目が多いためだが、財全体で見ると、前月と伸びが同じであったことから、関税の影響は限定的と見られよう。

財の中で、家具や玩具など輸入割合が高く関税の影響を受けやすい品目について6月と7月の価格の伸びを前月比で見ると、家具(6月0.4%→7月0.9%)のように前月を上回った品目もあるが、玩具、スポーツ用品、家電、衣料品などは前月を下回った(図表3参照)。家電(0.9%→-0.9%)のように下落に転じた品目も見られた。

もっとも、前月比は短期的な価格動向を反映する指標だ。6月の上昇が大きかった反動という面もあるかもしれず、8月のCPIで動向を確認したい。

なお、6月の財項目全体が0.2%上昇にとどまった背景に、6月の関税関連品目が押し上げ要因であった一方、中古車は6月が0.7%と下落し押し下げ要因だったが、逆に、7月の中古車は0.5%上昇と押し上げ要因であった一方、関税関連品目の多くが押し下げ要因となり、相殺された面もある。

このような細かな品目別の話がある一方で、より重要な教訓は、関税の引き上げが商品価格に反映する経路は複雑ということだ。トランプ大統領が発表する「税率」からは免税対象(輸入額の半分近いこともある)を除く必要がある。これを考慮した実質的な関税率であっても、日本のような米国への輸出業者が関税分を負担するケースや、米国企業が関税によるコスト上昇分を一部負担しているケースもあるようだ。価格転嫁は、方法も時期も一律でない中、関税の影響を抑える要因となっている。そのため、関税の影響が急激に表面化する可能性は低下したようだ。このような中、米金融当局が関税を据え置きの理由とすることは難しく、年内2回程度の利下げが適切ではないかと筆者は見ている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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