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- 7月の米雇用統計は9月の利下げ再開を後押しか?
7月の米雇用統計によると、非農業部門就業者数の伸びは市場予想を下回り、過去2ヵ月分も大幅に下方修正された。失業率は4.2%とFRBの長期見通しと一致したが、小幅ながら上昇傾向が続いてるうえ、労働参加率の低下も懸念材料だ。平均時給は前年同月比で3.9%増と底堅さも見られた。こうした結果を受け、9月FOMCでの利下げ観測が強まっているが、今後も雇用統計とCPIの動向に要注目だ。
7月米雇用統計で非農業部門就業者数は過去分が大幅に下方修正された
米労働省が8月1日に発表した7月の米雇用統計によると、非農業部門就業者数は前月比7.3万人増と、市場予想の10.4万人増を下回った(図表1参照)。5-6月の伸びは大幅に下方修正され、5月の伸びは14.4万人から1.9万人に、6月は14.7万人から1.4万人に下方修正された。直近3カ月の平均は月3.5万人増となった。
家計調査に基づく失業率は4.2%と、市場予想の4.2%に一致したが、前月の4.1%を上回った。
平均時給は前年同月比では3.9%増と、市場予想の3.8%増、前月の3.7%増を上回った。前月比の伸びは0.3%増で、市場予想と一致したが、6月の0.2%増を上回った。
6月に就業者数の伸びを支えた政府部門は7月、大幅に下方修正された
7月の米雇用統計前に9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での市場の利下げ観測は後退していたが、結果を受けて9月の利下げを確実視する水準まで織り込みが進んだ。7月から9月のFOMCの間には米雇用統計と消費者物価指数(CPI)が各々2回ずつ発表予定となっている。そのうちで最初に発表された7月の米雇用統計で、市場予想を下回る労働市場の姿が示された。これを受け、CPIが関税の影響で急上昇でもしない限り(そして市場予想を見る限りその可能性は高くはないようだ)、9月の利下げ再開の可能性は高まったようだ。
7月の米雇用統計で注目されるのは非農業部門就業者数の伸びが市場予想を下回ったことと、過去2ヵ月分が大幅に下方修正されたことだ。
就業者数の伸びを部門別に見ると(図表2参照)、景気に影響されにくい教育・医療部門の伸びが雇用全体の伸びを支える姿となっている。雇用の伸びに幅広さがみられない中で就業者数全体の伸びは市場予想を下回ったこととなる。また、6月堅調だった政府部門は7月に伸び悩んだうえ、6月分は速報値の7.3万人増から1.1万人増に大幅に下方修正された。1か月前の当レポートで、米国では6月が学年末となる中、公立校の教員の採用などで高め可能性があり、可能性があると見ていたが、今回の下方修正幅は想定以上だった。
非農業部門就業者数全体でみても、6月と5月の雇用の伸びは合計で25.8万人と大幅に下方修正された。修正の原因として、調査票の提出遅れや季節調整が考えられるが、5月分の修正が大きいのは調査票ではなさそうだ。いずれにせよ、過去修正の大きさと部門別の就業者数の伸びの偏りは、米連邦準備制度理事会(FRB)が繰り返し述べてきた「米労働市場は堅調で、様子見が適当」との姿勢に変化を与えそうだ。
失業率は小数点以下第3位まで見るとじり高で、労働参加率も低下傾向
次に失業率は7月が4.2%と水準としてはFRBの長期見通しに一致する水準だった。しかし小数点以下第3位まで見ると4.248%で実態は4.3%に近いうえ、失業率はじりじりと上昇傾向だ(図表3参照)。
また、労働参加率の低下傾向も懸念材料だ。一般に労働参加率の低下は、労働意欲の低下、労働市場からの退出を示唆するからだ。移民政策が労働参加率を押し下げている可能性も考えられるが、消費者に仕事の探しやすさを問い合わせる聞き取り調査では「職を探しにくい」との答えが増えているものもある。失業率が示唆する水準ほど労働市場は堅調でないのかもしれない。
そうした中、平均時給は前年同月比では3.9%増と比較的堅調だった。短期的な変動を反映する前月比も0.3%増と、6月を上回った。ただし、前月比の伸びを部門別に見ると、小売りの伸びの影響が大きかった(図表4参照)。7月の小売部門のように部門別データは変動が大きいこともあるだけに、賃金動向については慎重に判断することが求められよう。市場にインパクトを与えた7月の米雇用統計の中にあって、賃金の伸びには底堅さも見られたが、これが続くのかも含めて、米雇用統計を注視し続ける必要がありそうだ。
7月の雇用統計発表後のFRB高官の発言はまだ多くないが、サンフランシスコ連銀やクリーブランド連銀の各総裁は米労働市場に対する認識に変化があったことを示唆している。米雇用統計をトータルで見ると、「労働市場は堅調」の決まり文句に見直しもありそうだ。筆者も、一時消極的となった9月の利下げ再開シナリオを元に戻すこととした。
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