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温暖化対策:コストか、投資か
市川 眞一
2023/04/21

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概要

4月15、16日に札幌で行われたG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、議長国である日本が防戦に追われた模様だ。特に化石燃料の利用及び自動車に関して、日本は既に世界の潮流に取り残されつつある感が否めない。欧州、米国は温暖化対策を投資と捉え、次世代へ向けた競争力の源泉と考える傾向がある。一方、日本は依然としてコストと見ているのではないか。



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EU:市場を活用した高度な戦略で二兎を追う

EUは温室効果ガス対策のフェーズ4、即ち2021~30年までの10年間に関し、当初、排出量の削減目標を1990年比40%としていた。しかし、2020年12月17日、EU理事会は55%削減と目標を大きく引き上げている。結果として、未達になる事業所が急増するとの思惑から、EU-ETS(欧州排出量取引市場)における排出量価格は急騰した(図表1)。

 

 

この大きな変化は、ドイツの国防大臣であったウルズラ・フォンデアライエン氏が、2019年12月1日、EUの内閣に当たるEU委員会の委員長に就任したことが転機だったと言える。一見すると域内企業にとりコストの増加要因だが、深慮遠謀に基づく戦略なのではないか。

いずれは多くの国でカーボンプライシングが採用され、その価格は国際的な裁定により横並びの水準になると見られる。温室効果ガス排出量の多寡は、個々の企業のコストに大きな影響を及ぼすことになるため、EU域内企業が先行して厳しい基準をクリアすれば、理屈の上では長期的に強い国際競争力を得ることが可能だろう。つまり、地球温暖化対策は、コストの増加要因ではなく、将来への投資との考え方である。

敢えて排出量価格を高騰させ、インセンティブとペナルティの経済的な差を大きくし、必然的に投資を促そうとしているわけだ。その成果として、温室効果ガスの排出量削減と国際競争力強化の二兎を追ったのだろう。排出量取引の市場機能を活用した高度の戦略と言わざるを得ない。

 

自動車:基幹産業故に遅れるEVシフト

 

1960~70年代に公害に苦しんだ日本は、大気、水質、土壌などにおいて様々な対策を講じた。その結果、1980~90年代には極めてエネルギー効率の高い経済構造となり、日本車は世界の自動車市場を席巻したのである。

しかしながら、例えばGDP1単位を産み出すのに必要な温室効果ガスの排出量を国・地域別に比較すると、2000年代に入って欧州に抜き去られた(図表2)。さらに、米国が日本の背後に迫っている。日本が自らを「環境大国・省エネ大国」と考えるのは、最早、実態に合わなくなっているのだ。

 

 

日本が議長国となった今回のG7気候・エネルギー・環境大臣会合は、この国が国際社会においてかならずしもフロントランナーでないことを再確認させる場となった。それは、温暖化対策を投資と判断している米欧諸国に対し、未だコストと考えている戦略性の違いが大きく影響しているのではないか。

最も深刻な問題は自動車だ。ガソリンエンジンで世界を席巻した日本企業は、ハイブリッドの成功もあり、EVへの転換に出遅れた。この分野においては、中国、米国が先行し、欧州のメーカーがそれを追いかける構図であり、日本企業の存在感は希薄であると言わざるを得ない。

自動車は日本の基幹産業だ。それ故、業界地図を塗り替えかねないEV化に遅れたのだろう。ただし、日本の自動車市場は小さく、主戦場は米国、中国など海外だ。コストとの概念を捨て、投資を行わなければ、厳しい未来となりかねない。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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