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米国:信用収縮の兆候はあるのか?
市川 眞一
2023/05/12

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概要

シリコンバレー銀行(SVB)の破綻以降、米国で金融システムへの不安が燻っている。特に懸念されているのは、融資の縮小による景気への影響だろう。もっとも、米国の商業銀行の預貸率は70%を切り、全体で2兆ドルの現金を保有している。預金の引き出しには十分に対応できるため、あくまで個別行の問題に止まるのではないか。不動産向け融資も4月以降は増加している。



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鍵は低い預貸率:預金の引き出しは現金により対応可能

ITバブル崩壊、そしてリーマンショック・・・この2つの歴史的な金融危機直前、米国の商業銀行の預貸率は100%を超えていた(図表1)。従って、信用不安が広がり預金の引き出しが起こると、銀行は融資の回収、資産の売却による現金の確保を迫られ、経済が一気に失速したのだ。

 

 

一方、足元、銀行全体の預貸率は69.6%に過ぎず、預金残高の12.6%に相当する2兆175億ドルの現金を保有している。これは、リーマンショック後のQE1、2、3、そして新型コロナ禍の下での歴史的な金融緩和の結果に他ならない。3月の預金の減少額は前月に比べ3,802億ドルであり、マクロ的に見た場合、仮に大規模な預金流出が続くとしても、米国の金融システムは十分に耐えられると考えられよう。

SVBの破綻、ファーストリパブリック銀行の経営危機に際して、財務省、FRB、連邦預金保険公社(FDIC)など当局は迅速に対応、買収先を見付けるなかで、預金は全額保護された。その結果、預金者の不安が緩和されたと見られ、預金残高は4月に入って第4週までに75億ドル増加している。

一方、株式市場においては、一部の銀行に売りが集中し、株価が急落する状況が終わったわけではない。今後も個別銀行の経営が問題視される状況は当分続くだろう。しかしながら、それが急激な信用収縮をもたらし、米国経済が失速するとのシナリオは、悲観的に過ぎるのではないか。

ちなみに、もっとも懸念されている不動産関連の融資は、3月後半に347億ドル減少した(図表2)。もっとも、4月は第4週までに406億ドル増加している。つまり、SVBの破綻を受け一時的に与信の縮小はあったが、米国の商業銀行も融資先の開拓に苦労しているため、今のところそれは一過性の動きに止まっている模様だ。

 

 

課題は連邦債務の法定上限:政治決着なら経済への悲観論は後退か!?

FRBのジェローム・パウエル議長は、5月3日の会見で銀行監督に甘さがあったことを率直に認めた。ドナルド・トランプ前大統領の時代に規制が緩和されており、それが今回の地銀破綻の要因になったとの見方は少なくないようだ。ジョー・バイデン政権は、規制の見直しに着手するだろう。

もっとも、それが急激な信用縮小をもたらすものになるとは考え難い。金融危機が実体経済に広がれば、そこから回復させるコストは極めて大きなものになると想定されるからだ。また、バイデン大統領は来年11月に自らの再選を賭けた大統領選挙を控えている。新たな銀行規制が景気を失速させるリスクは避ける可能性が強い。

米国の政治は連邦債務の法定上限問題を抱えている。ジャネット・イエレン財務長官は、ケビン・マッカーシー下院議長に宛てた書簡で、債務の上限引き上げ、もしくは上限の一時的な停止がなければ、6月の早い段階で米国政府がデフォルトに陥る懸念を示した。この件の趨勢は、米国経済の先行きを大きく左右するだろう。もっとも、この件が政治決着すれば、米国経済への悲観論は大きく後退するのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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