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レームダック化のリスク?岸田政権
市川 眞一
2023/06/23

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概要

G7広島サミットにおいて外交力を示し、子ども未来戦略を争点に岸田文雄首相が国民に信を問う可能性は高いと考えていたが、解散は見送られた。一方、2024年9月には自民党総裁選がある。今秋に衆議院を解散できない場合、岸田首相の再選戦略は不透明になり、与党内での指導力が低下するのではないか。いずれにせよ、大胆な成長戦略、金融政策の変更はさらに隘路になった。



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■ 通常国会での解散見送り:次の山場は秋の臨時国会

大手メディアによる世論調査を見ると、岸田内閣の支持率は今年に入って上昇基調だった。しかしながら、G7広島サミットをピークに低下に転じ、岸田首相が通常国会での解散見送りを明言した直後に行われた2社の調査では大幅な下落となっている(図表1)。政務秘書官だった長男による公邸の公的部分の私的使用問題、子ども未来戦略の財源問題などが背景だろう。

 

 

2024年9月には自民党総裁選挙が予定されている。7年8か月に亘る長期政権を維持した安倍晋三元首相の場合、再選された2回の総裁選を睨んで、その9~12か月前に衆議院を解散した(図表2)。総選挙における自民党の圧勝は、安倍元首相の指導力を強化し、同党総裁として3選された最大の要因だったと言っても過言ではない。

 

 

岸田首相が再選を目指すのであれば、来夏までの解散が必須の条件だろう。ただし、今年末には防衛費増額、子ども未来戦略の財源問題に取り組まなければならない。また、今年1月から開始した電力・ガス価格激変緩和対策として導入した補助金は、10月検針分で終了する。通常国会での解散を見送ったなかで、9月にも召集が想定される臨時国会が重要な山場となりそうだ。

 

 

■ 公明党との関係修復は見込めるが・・・

岸田首相が通常国会での解散を見送った背景には、公明党との軋轢もあったと見られる。公明党は、小選挙区が5区増える東京都での候補者調整が行き詰まるなかで、東京都に限り自民党候補を推薦しない方針を決定した。これは、自民党にとって大きな打撃になる可能性がある。

もっとも、2021年の総選挙で公明党が議席を得た小選挙区は9区だが、当該選挙区での比例区における同党の得票は平均は3万1,254票に過ぎない(図表3)。平均5万票程度に達する自民党の基礎票がなければ、公明党は小選挙区で勝てなかった可能性が強いだろう。

 

 

一方、候補者を擁立した9区を除き、公明党は小選挙区で自民党候補を推薦した。結果として、1選挙区で平均2万2千票の公明党の基礎票が、自民党の議席獲得に貢献したと見られる(図表4)。つまり、選挙に関する自民、公明両党の相互依存関係は極めて強く、お互いに相手を必要としているのだろう。解散が秋以降になったことで、両党は関係修復に動くと見られる。

 

 

もっとも、それが直接的に岸田内閣の支持率回復に繋がるわけではない。既にG7サミットは終わり、子ども未来戦略は施策の概要が示されたものの、政権浮揚には力不足のようだ。岸田首相が今秋の解散を目指すのであれば、内閣改造、自民党役員人事の他、中国、北朝鮮との関係改善など再び外交に頼ることになろう。ただし、リスクも大きく、何もなければレームダック化も考えられる。

他方、内政でのリスクは極力避ける方向となり、市場が期待する成長戦略の実施は見送られるだろう。また、自民党内における批判を抑える上で、財政政策は拡大基調が続くものと見られる。そうした政局を勘案した場合、日銀による金融政策の修正も難しいのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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