Article Title
FRBの次の一手
市川 眞一
2023/12/08

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

12月12、13日には今年最後のFOMCが開催される。政策金利は据え置きとの見方が大勢であり、市場の関心は早くも利下げ開始のタイミングに移った感が強い。従って、今回のFOMCで注目されるのは、参加メンバーの経済見通しだ。2024年末の政策金利予想の中央値が4.50~4.75%以下であれば、長期金利が一段と低下、為替はドル安・円高方向へ振れることが予想される。



Article Body Text

■FRBは市場との対話を重視してきた

12月1日に行われたスペルマン大学におけるジェローム・パウエルFRB議長の講演は、1)金融引き締めの効果はタイムラグにより完全には現れていないこと、2)FOMCメンバーは2024年に景気が減速すると考えていること、3)利下げの検討は時期尚早、4)必要なら一段の引き締めも辞さないこと・・・以上4つのポイントがあった。もっとも、全体を通じて、米国経済の減速がインフレリスクを低下させつつあることを指摘する内容だったと言えよう。

この講演に先立つ11月30日に発表された10月の個人消費支出(PCE)物価指数は、総合指数が前年同月比3.0%、コア指数が同3.5%の上昇だった(図表1)。原油などエネルギー価格が下落、物価を押し上げているのは主に賃金となり、パウエル議長が指摘した通り、実質賃金の伸びはプラスになっている。これは、金融政策が基本的に意図した方向へ経済を導いていることを示すだろう。



今回の利上げ局面において、FRBは様々なチャンネルを通じて市場との対話に腐心してきた。その結果、指標となる翌日物調達金利(SOFR)は、シカゴマーカンタイル取引所(CME)が算出する1、3、6ヶ月物の先物を含め、FOMC前に利上げをほぼ正確に織り込んでいる(図表2)。


現在、FFレートとSOFRのスプレッドはほとんどない状態だ。これは、FRBが利上げなしとのシグナルを出していることを示すだろう。FFレートの引き上げは、既に終了した可能性が強いと考えられる。

■注目される経済見通し

3回連続で政策金利の据え置きが見込まれるなか、来週のFOMCで注目されるのは、参加者19人による経済見通しだ。9月の段階で、2023年末のFFレートの中央値は5.50~5.75%、2024年末はそこから2回利下げした5.00~5.25%だった(図表3)。実際は5.25~5.50%が天井だろう。

今回、2024年末の予想の中央値が4.50~4.75%以下であれば、少なくとも25bpの利下げが3回行われるとの想定になる。米国の長期金利は一段と低下するのではないか。



ちなみに、FOMCで金融政策の決定に投票権をもつのは、議長、副議長2人を含むFRBの理事7名、ニューヨーク連銀総裁、残り11の地区連銀から輪番で4名、計12名だ。今年の投票権者の姿勢を見ると、FRBのクリストファー・ウォラー理事、フィラデルフィア連銀のパトリック・ハーカー総裁、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁がタカ派、シカゴ連銀のオースタン・グルーズビー総裁はハト派として認識されてきた(図表4)。



年明け以降は、明確なハト派がいなくなるものの、タカ派もウォラー理事、クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁の2名に止まる。パウエル議長を含め9名が中立派になるため、これまでの政策との継続性が重視されるのではないか。

2024年は、国際社会の分断による構造的なインフレの下、循環的には物価が落ち着く期間となりそうだ。そうしたなか、市場の注目は、FRBによる利下げのタイミングだろう。つまり、FRBの利下げ期待が強まるなか、マーケットは日銀によるマイナス金利の解除を織り込むことから、当面、為替はドル安・円高方向へ振れることが多くなりそうだ。

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安とインフレの悪循環

米国大統領選挙 アップデート②

岸田政権による次の重点政策

東京はアジアの金融ハブになれるか?

米国の長期金利に上昇余地

新たな中東情勢下での原油価格の行方