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- 金が買われる構造的な理由
米国は巨額の貿易赤字により、構造的に経常収支が赤字だ。もっとも、金融収支によりそれをファイナンスしてきた。米国は世界中からモノを買うことで、その決済手段としてドルは基軸通貨になったとも言える。ドナルド・トランプ大統領が関税を使い、貿易収支の均衡を目指せば、基軸通貨としてのドルの地位は揺らぐだろう。次の覇権国が見えないなか、ドルに置き換わるのは金ではないか。
■ 巨額の貿易赤字による効用
米国の経常収支は長期間に亘り巨額な赤字を続けてきた(図表1)。主たる要因は貿易収支の赤字に他ならない。GDP統計において、輸入超過は経済成長を阻害する要因であり、雇用を海外に奪われていることを意味する。トランプ大統領が問題視しているのはその点だろう。
もっとも、貿易赤字を極端に重視して輸入品に高率の関税を掛けるのは、唯一の覇権国となった米国の強さに関する根本的な理解に欠けるのではないか。米国の巨大な経常赤字は、国際収支上、金融収支の黒字と均衡してきた(図表2)。つまり、米国の国民は稼ぐ以上に消費をして豊かな暮らしを享受する一方、結果として生じる巨額の借金については、世界がファイナンスしてきたわけだ。その債務の約束手形がドルに他ならない。
2024年における米国の貿易・サービス収支の赤字は1兆2,130億ドルだった。これは、世界で18番目の経済規模であるオランダのGDPに匹敵する額だ。巨大な需要を世界に創出しているだけに、米国企業がドルでの決済を求めた場合、相手国・地域の企業は抗えないだろう。
その結果、相手国・地域は外貨準備の中心にドルを据えざるを得ず、ドルは基軸通貨になったわけだ。IMFによれば、2024年末時点において、世界の外貨準備の53.6%をドルが占めていた(図表3)。ドルに次ぐのがユーロだが、まだウェートは18.4%に止まり、外交・安全保障面、経済でも存在感を高める中国の人民元は2.0%に過ぎない。
■ ドル代替としての役割を担う金
ドルが基軸通貨であるからこそ、刷ったドルを決済に使うことで、米国国民は自ら稼ぐ以上に消費をし、相対的に豊かな生活を享受してきた。つまり、貿易赤字と基軸通貨は表裏の関係と言えるだろう。古代ローマ、近世におけるスペイン、オランダ、そして近代の英国、歴史上の覇権国は、例外なく貿易収支が大幅な赤字だった。
基軸通貨を使って世界中から借金をする(=モノを買う)上で、その国が簡単に攻め込まれたり、通貨価値が不安定であれば、借金は出来ず、貿易収支の赤字にも限界があるはずだ。そこで、覇権国は世界有数の軍事力、そして洗練された金融システムを持った。つまり、軍事力が覇権国を作るのではなく、経済力が覇権国を作り、必然的に軍事力が備わると考えられる。旧ソ連は、軍事力で覇権を握ろうとしたが、経済力が備わらず、米国との軍拡競争で国力が疲弊して崩壊に至った。
米国が関税によって貿易収支の均衡を目指すのであれば、同国経済がインフレに陥るだけでなく、国際社会がドルを基軸通貨として受け入れなくなる可能性は否定できない。結局、国際社会は、ドルに代わる外貨準備の軸を見出す必要がある。
2013年3月末に9.6%まで低下していた外貨準備に占める金の比率は、2024年末に16.9%になった(図表4)。絶対量で見ても、2009年3月末は2万9,964トンだったが、2024年末は3万6,250トンへと大幅に増加している。
トランプ大統領による通商政策が後継政権にも継承される場合、米国の貿易収支が均衡に向かう一方、米国の覇権は不安定化、ドルが基軸通貨の座を譲ることになるシナリオが浮上するだろう。ただし、現段階で次の覇権国・基軸通貨は不透明だ。外貨準備におけるアンカーとすべき通貨が見えない以上、当面、国際社会は金にその代替的役割を求めることになるのではないか。
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