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- FRBは当面利下げを見送りへ
米国のコア消費者物価上昇率は、5月、前年同月比2.4%であり、ドナルド・トランプ大統領はFRBに利下げを実施するよう迫っている。しかし、関税税収は急増しており、在庫の取り崩しが進めば、価格転嫁を背景にインフレが再加速する可能性が強い。FRB内ではミッシェル・ボウマン副議長、クリストファー・ウォラー理事が早期利下げに傾くものの、現段階で多数派にはならないだろう。
■ 物価の安定は一過性の可能性
米国財務省によれば、5月の関税税収は還付額を除いたネットベースで前年同月比4.2倍の222億ドルだった(図表1)。4月の156億ドルからさらに大きく増加している。ちなみに、昨年の月間平均は72億ドルだ。4月以降、関税税収の急拡大は、トランプ政権による関税政策が理由だろう。
トランプ大統領は、4月9日、一旦は発動した相互関税を中国以外の国・地域については中断した。スタグフレーションのリスクを懸念、長期金利が急上昇し、株価が大きく下落したことが背景ではないか。それでも、現在、ベースラインとして中国を除く全輸入品へ10%の相互関税を課している(図表2)。また、自動車・部品に25%、鉄・アルミニウムに50%の個別関税が導入された。
中国に対しては、合成麻薬鎮痛剤『フェンタニル』製造への制裁措置として、20%の追加関税が適用されている。さらに、報復も含めて計145%の税率としたが、5月10、11日のジュネーブにおける閣僚協議を経て、現在の税率は暫定的に30%になった。145%からは引き下げられたものの、30%は極めて高い税率と言えるだろう。
米国の貿易赤字は、4月、616億ドルであり、3月に比べ44.5%の水準になった。ただし、1-3月貿易赤字は3,906億ドル、前年同期比95.2%の大幅な増加だ。トランプ政権の関税政策を見越して課税前の駆け込み輸入が急増したからだろう。一方、GDP統計を見ると、1-3月の在庫投資は1,630億ドルに達し、前年同期の177億ドルと比べて9.2倍になっている(図表3)。
問題は在庫の取り崩しが一巡した後だ。トランプ政権は生産拠点の国内誘致を強く働き掛けているものの、一朝一夕に進むとは考え難い。結局、7-9月に入れば輸入は急増するだろう。輸入事業者の支払った関税が製品に価格転嫁され、消費者物価を大きく押し上げる可能性は否定できない。
■ 深まるトランプ大統領とFRBの溝
6月17、18日のFOMCで、FRBはFFレートの誘導水準を4.25~4.50%で据え置いた。3ヶ月毎に発表される参加者19名の経済見通しでは、2025年末におけるFFレートの想定値(中央値)が、昨年12月、今年3月に続き3.875%になっている。つまり、年内2回の利下げを織り込んだ水準だ。
もっとも、これは飽くまで中央値であり、昨年12月に1人だった現状維持を見込む参加者は、今年3月に4名、今回は7名に急増した。このFOMC後に行われたインタビュー、講演において、ボーマン副議長、ウォラー理事は7月29、30日の次回FOMCにおける利下げを示唆したものの、12地区連銀の総裁を含めたFOMC参加者の大勢は、利下げに関して慎重な見方を強めつつあるのではないか。
FOMC後の記者会見において、ジェローム・パウエル議長は、今後、関税が物価に与える影響を見極める姿勢を改めて強調した。1-3月中に積み上げられた在庫の取り崩しが一巡し、物価にどのような変化が起こるかを確認するまで、FRBは利下げを見送る可能性が強いと考えられる。
トランプ大統領は、「聖域都市」とされてきたロサンジェルスにおいて、大統領令で州軍を投入、海兵隊も配備して不法入国者の取り締まりに乗り出した。それは、米国の人手不足を一段と深刻化させる可能性がある。トランプ大統領の関税政策、移民政策は米国のインフレ圧力を再び強めることが考えられるだけに、利下げを求める同大統領とFRBの溝は、さらに深まることが予想される。
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