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インフレ下のリフレ策によるインパクト
市川 眞一
2025/11/20

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概要

高市早苗内閣は報道各社の世論調査で高い支持率での滑り出しとなった。もっとも、歴代の首相を振り返ると、就任時の支持率と在任期間には必ずしも関連はない。高市首相は、大型経済対策により、物価高対応と景気浮揚を図る意向のようだ。ただし、インフレ期におけるリフレ的政策は、意図せざる長期金利の上昇、円安を招く可能性が強い。日本経済には逆効果になるのではないか。



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■ 高支持率下で滑り出した高市内閣

報道各社の世論調査によれば、10月21日に発足した高市内閣は、軒並み60%以上の高い支持率を得ている(図表1)。石破茂政権下で離れた保守層、若年層の回帰が要因のようだ。




もっとも、2000年以降に在任したのべ13名の歴代首相を見ると、就任時の内閣支持率が、政権の存続期間と連動しているわけではない(図表2)。例えば、政権発足時、NHKの調査で72%の高支持率だった鳩山由紀夫首相(当時)は、8ヶ月で退任に追い込まれた。一方、岸田文雄首相の場合、就任時の支持率は13名中10番目の49%だが、在任期間は3番目の3年間に及んでいる。




政権長期化の条件は、1)政策で実績を挙げること、2)国政選挙で勝つこと・・・の2つだろう。衆議院の任期満了直前に内閣を発足させた岸田元首相は、就任から10日後に衆議院を解散、総選挙での勝利がその後に大きく影響した。

高市首相は、総裁選で公約した「責任ある積極財政」を具現化するため、大型の経済対策を実施、政権運営に弾みを付ける意向と見られる。その上で、衆議院解散の時期を探るのではないか。

■危機対応的規模の補正予算

高市政権が今臨時国会での成立を目指す2025年度補正予算は、一般会計ベースで昨年度の13兆9,433億円を大きく上回り、17兆円を超える規模になる模様だ。対名目GDP比だと2.7%程度に達すると想定される(図表3)。ちなみに、2000年代に入り、補正の規模が17兆円を超えたのは2020~22年度の新型コロナ期のみだ。また、対GDP比で2.7%を上回ったのは、リーマンショック期の2009年度(2.8%)、東日本大震災のあった2011年度(3.0%)、それに新型コロナ期の3年間である。何れも危機的な経済状況への対応だったと言えるだろう。


高市首相が明確に語ったわけではないが、積極財政を推進すると同時に、緩和的な金融政策継続への期待を強く滲ませていることから、リフレ的な政策を指向していると見られる。それは、2012年12月に第2次安倍政権が発足した直後、大型経済対策として10兆2,027億円の補正予算を成立させた状況を彷彿とさせるものだ。



ただし、当時、円・ドル相場は85円台であり、2012年の消費者物価は前年比0.7%低下していた。明らかな円高を背景としたデフレ局面の真っただ中だったことから、大胆なリフレ策は市場に歓迎されたのである。財政赤字が膨らんでも量的緩和の下、日銀が発行される国債を吸収できた。



一方、現在、日本経済が直面しているのはインフレのリスクである。高市首相は、コストプッシュ型インフレへの懸念を繰り返しているが、その要因の1つは円安と言えよう。インフレ下で積極財政を実施、緩和的金融政策を継続すれば、国債が売られて意図せざる長期金利の上昇をもたらしかねない上、円安にも歯止めが掛からなくなる可能性が強い。高市首相が自民党総裁に就任して以降、実際のマーケットはそのように動いている(図表4)。

公明党は政権を離脱したが、自民党は日本維新の会と連立することで高市内閣を発足させた。もっとも、衆参両院において少数与党であることに変わりはない。米欧でも見られるように、不安定化する政権ではポピュリズム的政策により財政が拡張し、通貨価値は不安定化する傾向がある。日本も例外ではないと考えられるだけに、通貨価値下落(=インフレ)への備えが極めて重要だろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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