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地政学リスクの高まりを受け、金価格は最高値更新
塚本 卓治
2025/12/23

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概要

金相場は12月22日のアジア時間に最高値を更新した。10月につけた最高値を2カ月で更新したことになる。米国とベネズエラの対立懸念に加え、ウクライナとロシアの対立懸念も高まったことで地政学リスクが高まり、金の安全資産としての需要を高めた。一方で、地政学リスクの高まりによる価格上昇は短期的な動きとなるのではないかという見方もあろう。しかし、2022年以降は地政学リスクの高まりによる価格形成には粘着性も見られ、地政学リスクの高まりがかえって安全資産需要や分散投資需要という、ここ数年の構造的な金価格上昇要因を補強する可能性もあり得る。



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■ 12月22日、金価格は最高値を更新

12月22日の日本時間の午前中に、金価格は10月20日につけた1トロイオンス=4,381.52ドルを上回り、2カ月の価格調整を経て、再び最高値を更新した(図表1参照)。その後も午後に入り1トロイオンス= 4,400ドルを上回り、金価格は強含んでいる。今回の最高値更新の背景にあるのは、最高値近辺でのもみ合いが続いていた中で、先週末以降急速に地政学リスクが高まった事にある。米国とベネズエラの対立懸念に加え、ウクライナとロシアの対立懸念も高まったことから、金の安全資産需要が高まった。



トランブ米大統領が19日にベネズエラとの戦争の可能性について否定しなかったことに加え、19日以降、ロシアの石油を輸送する「影の船団」のタンカーを、ウクライナが初めて地中海で攻撃したとの報道を受け地政学リスクが高まった。



これまでのウクライナ軍の海上作戦は、クリミア半島周辺など、黒海沿岸のロシア軍事拠点や物流拠点に集中していた。しかし、今回の攻撃はNATO加盟国であるギリシャの排他的経済水域に近接する海域で行われた初めての攻撃であると報道されており、ロシア産原油が黒海からトルコ海峡を通過し、スエズ運河を経由してインドや中国などのアジア市場に向かうための「生命線」で起きた攻撃ということになる。ロシア側からの報復へとエスカレートする可能性を秘めている。



過去を振り返ると、地政学リスクによる金価格上昇は短命であるというのが市場のコンセンサスであった。しかし、一方で、2022年以降の金価格の価格形成をみると、地政学リスクの高まりをきっかけにして、「安全資産・分散投資資産」としての金需要の高まりが構造的に金価格を押し上げてきている点には注目したい。

■ 2022年を境に変化した金の需要構造

1997年1月から2022年1月までの金価格は米実質金利と逆相関の関係にあった(図表2参照) 。つまり実質金利が低下すると(インフレを加味した債券投資の魅力が低下すると)金の相対的な投資魅力が高まり、金価格は上昇する傾向にあった。逆に実質金利が上昇すれば金価格は下落する、という関係にあった。ところが、2022年2月以降はその関係が崩れている。

2022年以降は実質金利が上昇しても金価格は下値が堅く、実質金利が2%程度の水準で推移した中で金価格は上昇してきたことが見て取れる。つまり本来の金と実質金利との相関関係を崩すほどの構造的な金需要が生まれていたこととなる。



その一つが地政学リスクの高まりと先進諸国の通貨供給量の増加を原因とする『世界の中央銀行による「脱米ドル」の動き』だ。今回のような地政学リスクの高まりは、この動きをさらに補強する可能性がある。

もう一つは、政府債務リスク、通貨安リスクに端を発する『通貨価値下落リスクをヘッジする動き』だ。

軍事的な対立の激化や軍事対立の長期化は関連する国の軍事費の増加につながるだけでなく、近隣国の防衛予算の増加を通じて政府債務リスク増加へとつながる。

今回の軍事対立が更に悪化すれば一段の金価格の上昇も考えうるが、そうした短期的な地政学リスクの高まりによる価格上昇は一過性のものであり、しばらくすれば価格は元のトレンドラインへと回帰するという考えもあろう。



ただ、一方でそうした軍事的イベントが繰り返される度に、かつての米国がベトナム戦争の負担に耐え切れずに通貨制度の変更(ニクソンショック)に追い込まれたように、2022年以降の構造的な二つの金需要を強化する方向に作用するだけでなく、より大きなリスクを潜在的に高める可能性には注視したい。


塚本 卓治
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券会社にて債券およびデリバティブ業務に従事した後、外資系運用会社および日系ファンド・リサーチ会社にて投資信託のマーケティングを担う。通算20年以上にわたり運用業界で世界の投資環境を解説。ピクテではプロダクト・マーケティング部長、投資戦略部長等を経て、現職。全国の金融機関や投資家を対象に講演を行う。マサチューセッツ工科大学(経営学修士)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト


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