Article Title
ハトを演じたECB、今後の展開
梅澤 利文
2019/03/08

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

昨日(19年3月7日)の今日のヘッドラインでECBの景気認識の大幅な下方修正とフォワードガイダンスの変更やTLTROの検討か導入の可能性を指摘しました。ECBがTLTROは検討だけでなく、導入を明確にした点でやや積極的な印象で、市場では国債利回りの低下、ユーロ安が見られました。



Article Body Text

ECB政策理事会:長期性資金供給オペ導入と年内利上げの断念を公表

欧州中央銀行(ECB)は2019年3月7日に政策理事会結果を公表、声明で、①政策金利の現状を維持する期間を定めたフォワードガイダンスで据え置きの目処を従来の「少なくとも19年夏まで」から「19年末まで」に先延ばししました。②銀行に長めの資金を貸し出す、的を絞った長期性資金供給(TLTRO-Ⅲ)の導入を公表しました(図表1右参照)。

ECBは昨年末に資産購入プログラムを終了(再投資へシフト)したばかりですが、ユーロ圏景気の悪化を背景に、金融政策の修正を迫られた格好です。

 

 

どこに注目すべきか:TLTRO、フォワードガイダンス、成長率予想

昨日(19年3月7日)の今日のヘッドラインでECBの景気認識の大幅な下方修正とフォワードガイダンスの変更やTLTROの検討か導入の可能性を指摘しました。ECB がTLTROは検討だけでなく、導入を明確にした点でやや積極的な印象で、市場では国債利回りの低下、ユーロ安が見られました。

今回のECBでは金利のフォワードガイダンス変更とTLTRO導入が公表された点でハト派(金融緩和を選好)的でした。

フォワードガイダンスは19年夏までの据え置きから、年内は据え置きと変更したことで、ECBのドラギ総裁の任期である19年10月前の利上げ、もしくはマイナス金利の修正は次期総裁に先送りされる運びとなることが示唆されました。

一方で、フォワードガイダンス変更は利下げの布石という見方は時期尚早と見ています。将来の短期金利の想定を見ても利上げ時期の後ズレを反映するに過ぎない模様です。

次に、TLTROについては、詳細は今後の発表を待つ必要はありますが、骨格は示されました(図表1右)。過去2回の理事会後の記者会見で、ドラギ総裁は新たなTLTROについて前向きに見えなかったこと、現在稼働中のTLTRO-Ⅱが最初に満期を迎えるのは来年で時間的余裕があることから、検討にとどめる可能性もありました。それでも導入を公表した点ではハト派的と見られます。

ただ、条件を見ると期間は2年であること、平均金利がオペ期間中の主要リファイナンス金利(現在0.0%)に連動という点で金融緩和の程度は弱められていると見ています。

それでもTLTRO-Ⅲ導入や利上げ時期の延期を示した点でハト派的な内容の理事会と見ていますが、方向性を左右したのはECBの景気認識と見られます(図表2参照)。経済成長率、インフレ率共に19年の予想値は、前回(18年12月時点)の予想から大幅に引き下げられています。ドラギ総裁は米中貿易戦争という外部要因と、ドイツやイタリア経済の低迷という内部要因を指摘しています。また、地政学リスク(英国の欧州連合(EU)離脱)などを考慮して、今後のリスクは下向きに傾いている判断を維持しています。

それでも20年以降の成長率予想は小幅な下方修正もしくは据え置きで、極端に悲観的とは見られず、まずは金融緩和策でハト派姿勢に転じながら、利上げについてはECBも米国同様、忍耐強く市場動向を見守る姿勢と思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが

2月の米雇用統計は波乱材料とならず