Article Title
米国のイラン原油禁輸の影響
梅澤 利文
2019/04/23

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米トランプ政権は、15年に米英独仏中ロとイランの間で結んだイラン核合意を昨年5月に離脱すると表明し、それに伴い18年11月からイラン産原油の禁輸を打ち出していました。ただ、8つの国、地域は適用除外となっていましたが、5月からは延長しないと表明しました。原油価格の不安定な動きが懸念されますが、次の点で、ある程度、原油価格上昇の抑制も想定されます。



Article Body Text

イラン原油禁輸:トランプ米政権、日本などへの原油禁輸の適用除外を終了へ

トランプ米政権は、2019年4月22日、日本を含む国・地域(日本以外は中国、ギリシャ、インド、イタリア、韓国、台湾、トルコ)に対してイラン産原油の禁輸から適用除外としている措置を5月2日に打ち切ると表明しました。

これを受けて原油市場では供給減少懸念から価格が上昇しました(図表1参照)。中国など主要輸入国の一部とイランは反発を強めています。

 

 

どこに注目すべきか:イラン、禁輸の適用除外、ガソリン価格、中国

米トランプ政権は、15年に米英独仏中ロとイランの間で結んだイラン核合意を昨年5月に離脱すると表明し、それに伴い18年11月からイラン産原油の禁輸を打ち出していました。ただ、先の8つの国、地域は180日適用除外となっていましたが、5月からは延長しないと表明しました。原油価格の不安定な動きが懸念されますが、次の点で、ある程度、原油価格上昇の抑制も想定されます。

まず、数字で確認します。イランの原油生産量は昨年は日量380万バレルと、世界の産油量4%程度でしたが、昨年11月以降は急減、19年は日量270万バレル程度です。

イランの原油輸出量は今年になって120~130万バレル/日と、昨年の240万バレル/日程度から概ね半減となっています(図表2参照)。イランの原油を輸入する主な国は中国が60万、韓国が40万弱、インド25万、日本10万、トルコ10万弱(単位はバレル/日)程度です。日本のイランからの原油輸入量の全体に対する比率は3~5%程度です。米国が適用除外を表明しても影響は限定的と日本政府は表明していますが、確かに過剰な懸念は禁物と思われます。

次に、産油国が、手際よく、増産の可能性を示唆している点です。例えば、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は150万バレル/日程度の増産は短期間に可能と表明しています。イランの輸出がゼロとなっても影響が無い数字が報道されています。原油価格は、リビアやベネズエラの生産停止などを背景に足元上昇傾向で、それに伴い米国国民が過敏に反応するガソリン価格も上昇しています。昨年トランプ大統領が原油市場に「高過ぎる」とコメントした水準に近づいているだけに(図表1参照)、自らの政策で原油価格が上昇することに配慮が払われると見られます。

最後に、これが経済的にプラスかマイナス要因かわかりませんが、中国が素直にイラン産原油の禁輸を受け入れるかは不透明です(トルコも不満を述べています)。対イランだけでなく米中の緊張が高まるリスクはありますが、中国などが禁輸を拒否すれば供給懸念は和らぐことが見込まれます。

米国はイランの生命線である原油輸出を断ち切ることで、体制弱体化を目指す一方、原油価格へ配慮もあるようです。しかし、イランなど当事国との緊張が高まれば、中東や石油を輸入に依存する国が不安定となる懸念もあります。影響拡大の可能性があるリスクの高い戦略と見られます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


東京都区部CPIの注意点と注目点

円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが