Article Title
火種は残る、中国貿易統計
梅澤 利文
2019/08/08

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米国トランプ大統領が今月になって突然、従来関税対象となっていない中国製品のほぼすべてに追加関税を課す「第4弾」の制裁を発動する意向を表明してから最初の中国貿易統計が公表されました。全体の数字は事前の予想と大差なく、市場の反応も限定的でした。ただ、内容を見ると今後の火種も見え隠れします。



Article Body Text

中国貿易統計:7月中国の輸出は予想外に増加、対米輸出は前年比で減少

中国税関総署が2019年8月8日に発表した7月のドル建貿易統計によると、輸出は前年同月比プラス3.3%と、市場予想(マイナス1.0%)、前月(マイナス1.3%)を上回りました(図表1参照)。

輸入は前年同月比マイナス5.6%となったものの、市場予想(マイナス9.0%)、前月(マイナス7.4%)は上回りました。結果として、貿易黒字は451億ドル(約4兆7900億円)となりました。なお、中国の対米貿易黒字は1-7月に11.1%増加しました。

 

 

どこに注目すべきか:中国貿易統計、対米輸入、為替操作国

米国トランプ大統領が今月になって突然、従来関税対象となっていない中国製品のほぼすべてに追加関税を課す「第4弾」の制裁を発動する意向を表明してから最初の中国貿易統計が公表されました。全体の数字は事前の予想と大差なく、市場の反応も限定的でした。ただ、内容を見ると今後の火種も見え隠れします。

まず、7月の中国貿易統計全体の数字では、輸出が前年同月比3.3%と市場予想を上回り改善しました。この背景を特定するには材料不足ですが、国別の輸出額を見ると、(日本を除く)アジアの主な国々や、欧州への輸出が増えている一方で、対米国の輸出の伸びは緩やかです。この傾向が今後、持続的な動きとなるのか、現時点で判断できませんが、輸出先の分散の可能性が見られました。

次に、懸案となっている対米貿易を見ると、米国向け輸出は388億ドルでした(図表2参照)。前年同月比で伸び率を見ると、4ヵ月連続でマイナスとなっています。

一方、輸入については108億ドルで、前年同月比では11ヵ月連続でマイナスとなっています。トランプ大統領は第4弾の意向を表明した際、中国が米国産大豆を購入しない(米国からの輸入)ことに不満を示しましたが、今回の貿易統計では、対米国の輸出と輸入のバランスが取れていないことが示されたとも見られます。貿易の不均衡は放置されるべきではないと思われますが、市場の反応を見ても、一方的な関税通告による解決策が妥当とも思われません。

さて、貿易統計に火種が残るなど、この先何が起きるか予断は許されませんが、当面、9月に予定されている米中閣僚会議が実施の運びとなるかに注目しています。

もう一つ、注目しているのが中国を為替操作国と表明したムニューシン財務長官のコメントです。財務長官は中国との競争上の不公正を除去するため国際通貨基金(IMF)と協力すると述べている点が気になります。IMFは米国の通商政策に否定的な見解を述べてきただけに、どのような協力関係となるのか興味のあるところです。IMFが7月に公表したばかりの対外セクターレポートでは人民元の実質実効為替レートを妥当と評価している点も合わせて注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


東京都区部CPIの注意点と注目点

円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが