Article Title
中国金融安定報告が示した懸念
梅澤 利文
2019/11/29

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国金融安定報告で中国の金融セクターの懸念を指摘しています。今日のヘッドライン2019年5月31日号でもとりあげたように中国の銀行セクターには注意すべき点も見られます。また同報告は他のセクターの懸念も指摘しています。中国政府部門などの健全性は確保されているものの、来年にかけても中国の金融(債務)問題には引き続き注意が必要と思われます。



Article Body Text

中国金融安定報告:中国銀行セクターの13%を高リスクに分類

中国人民銀行(中銀)は2019年11月25日に「2019年中国金融安定報告」を公表しました。中国の銀行セクターに懸念を示し金融機関4379社のうち13%超(586社)が中央銀行から「高リスク」と分類しました(図表1参照)。

なお、高リスクに分類されたのは銀行と金融会社で、大部分は地方の中小金融機関と見られます。昨年公表された初の同報告書では、約10%が高リスク(昨年は消費者金融会社を含まず)でした。

 

 

どこに注目すべきか:中国金融安定報告、ランクD、家計債務

中国金融安定報告で中国の金融セクターの懸念を指摘しています。今日のヘッドライン2019年5月31日号でもとりあげたように中国の銀行セクターには注意すべき点も見られます。また同報告は他のセクターの懸念も指摘しています。中国政府部門などの健全性は確保されているものの、来年にかけても中国の金融(債務)問題には引き続き注意が必要と思われます。

中国金融安定報告で気になったのは、まず銀行セクターに弱さが引き続き見られる点です。経営破たん直前の評価であるランク10は80社、その次に悪いランク9は259社、ランク8で247社にのぼります。これら「高リスク」に分類されたのが合計586社となります。反対に、最も評価が高いランク1はゼロと1社もありませんでした。全体的な分布も、ややリスク(懸念)が高い方にかたよっている印象です。

もっとも、中国金融安定報告で経営破綻を意味するランクDは1社だけでした。5月に発生した内モンゴル自治区の商業銀行が公的管理(実質破綻)となったケースでは、ほぼ預金は保護されたことや資金供給により、多少の混乱は見られたものの、金融システムリスクは未然に何とか回避されました。当局の危機対応への期待は維持されています。それでも(ランクが高い)破綻予備軍の存在は不安材料です。

中国金融安定報告で気になる指摘として家計債務の急増をあげています。中国の家計債務対GDP(国内総生産)比率は上昇傾向となっています(図表2参照)。8月に国際通貨基金(IMF)が公表した中国のカントリーレポートで中国の家計債務対GDPの今後の予想を見ると、さらなる上昇が想定されています。家計の債務を削減することは容易でないということの裏返しなのかもしれません。

家計債務対GDP比率の比較対象として図表2では米国をのせました。中国と米国は市場構造が異なるため水準の比較には意味が無いと思われます。ただ、同比率は一般に金融危機前に上昇する傾向が見られる点が気がかりです。

中国の場合、同比率の危険水域を示す水準について経験的な水準があるわけではありませんが、中国金融安定報告は同比率が中国の家計収入対GDP比率の水準にまで上昇してきた点を警告しています。さらに、同比率が高い地域の特色として、収入が低い地域において同比率が高い点を指摘して、家計債務への警告を強調しています。

中国国有企業や地方政府の債務が注目(今回の報告でも指摘)されますが、家計債務にも注意が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応

植田総裁のインタビュー、内容は利上げの地均し?

フランス政局混乱、何が問題で今後どうなるのか?

11月FOMC議事要旨、利下げはゆっくり慎重に

「欧州の病人」とまで言われるドイツの論点整理