Article Title
ドイツSPD、党首選で連立懐疑派勝利の影響
梅澤 利文
2019/12/03

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ドイツの連立政権はメルケル首相が所属するキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)とSPDで構成されています。大連立とも言われる組み合わせながら、SPDは政策の独自色が奪われ、支持率は低調です(図表1参照)。12月6日のSPD党大会では連立政権継続の是非を問う投票も予定されており、今後の動向に注目が集まっています。



Article Body Text

ドイツSPD党首選:連立懐疑派が勝利、連立継続の是非を協議

ドイツのメルケル政権の連立政権の一角を担う社会民主党(SPD)は2019年11月30日、党首選の決選投票を行い、連立政権に批判的なワルターボルヤンス元ノルトライン・ウェストファーレン州財務相とサスキア・エスケン議員のペア候補が勝利しました。

メルケル政権で要職を務めるショルツ財務相のペアが敗北したことで、連立政権の存続が不透明な状況に追い込まれました。なお、SPDは12月6日の党大会で先の両名を共同党首として承認すると共に、連立政権継続の是非を問う投票を行う予定と報道されています。

 

 

どこに注目すべきか:連立政権、SPD党大会、財政政策、総選挙

ドイツの連立政権はメルケル首相が所属するキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)とSPDで構成されています。大連立とも言われる組み合わせながら、SPDは政策の独自色が奪われ、支持率は低調です(図表1参照)。12月6日のSPD党大会では連立政権継続の是非を問う投票も予定されており、今後の動向に注目が集まっています。

ドイツの政治動向の市場への影響を考える上で、2つの点、「政権の枠組み」と「財政政策」について述べます。そのために、今後のシナリオを想定すると、最初の注目点はSPDの党大会で残留(連立政権維持)か離脱が問われることです。

残留が選択される可能性はあります。SPDの党首選で勝利したワルターボルヤンス氏は投票後の演説で、連立政権を即座に離脱する意図はないと発言しているからです。残留となれば、SPDはCDU/CSUに対し連立政権の中で独自色のある政策を訴えることとなります。SPDは財政政策に関しては緩和的で、均衡財政主義へのこだわりが見られるCDU/CSUより財政拡張路線です。また、最低賃金引き上げも主張しています。SPDの党首選後の欧州債券市場でドイツ国債利回りが上昇(価格は下落)した要因の一つと考えられます。

次に、離脱のケースですが、SPDが離脱を選択する可能性はやや低いとの見方が多いようです。SPDの支持率低下を見れば、解散選挙の場合議席を減らす可能性が高いからです。

ただし、党首選で連立懐疑派が選択されたように、連立政権から離れる可能性も考えられます。その場合、その後の展開はいくつかのシナリオが考えられます。

まずは、CDU/CSUが新たな連立を模索することです。ただ右派で欧州連合(EU)会議派のAfD(ドイツのための選択肢)との連立は考えにくい組み合わせです。温暖化ガスの排出抑制などへの関心が高まることから、若者を中心に幅広い支持を集めている左派の緑の党は、「数」の上では良い相手ですが、自動車の排気ガスなどについ考え方の隔たりが大きいことは気がかりです。

別のシナリオは、CDU/CSUが少数与党を選択することですが、政策運営は困難になることが見込まれます。

また、最終的には、再び総選挙(21年秋の選挙の前倒し)の可能性も考えられます。この場合、支持率を見ると、第1党はCDU/CSUとなることも見込まれます。

このように、SPDの党大会以後を、残留と離脱に分けて振り返ると、現在の枠組みであるCDU/CSUを中心とした政権が維持される可能性が高いように思われ、そうであるならば、政策が極端に変わる懸念は低いと思われます。最も政治問題ゆえ何が起きるかは見通せませんが。

同様に、財政政策についてもメルケル首相は早くもSPDの政策にけん制の構えであることだけ、付け加えておきます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応

植田総裁のインタビュー、内容は利上げの地均し?

フランス政局混乱、何が問題で今後どうなるのか?

11月FOMC議事要旨、利下げはゆっくり慎重に

「欧州の病人」とまで言われるドイツの論点整理