Article Title
メキシコ中銀、若干の軌道修正か?
梅澤 利文
2020/02/14

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が懸念される中、各国中央銀行の経済見通しや金融政策への影響に注目しています。メキシコ中銀は、先日のタイやフィリピンのように利下げをしており、形式的には「利下げグループ」ですが、声明内容にややタカ派(金融引締めを選好)的なトーンも含まれています。次回(3月)の会合で利下げを継続するかはデータ次第と思われます。



Article Body Text

メキシコ中銀:新型コロナウイルスの影響を懸念しつつ、インフレ率にも注意を払う姿勢か

メキシコ銀行(中央銀行)は2020年2月13日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を市場予想通り0.25%引き下げ、7.00%にすることを全会一致で決めました(図表1参照)。利下げは5会合連続となります。

声明文では、新型コロナウイルスの影響で世界経済は下方に傾くリスクがあることを指摘しています。なお、足元メキシコ経済は軟調な成長率が続いています(図表2参照)。一方、声明で物価見通しについて従来予測に対する上振れリスクに言及、今後の物価動向への配慮も示唆しました。

 

 

どこに注目すべきか 新型コロナウイルス、コアCPI、全会一致

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が懸念される中、各国中央銀行の経済見通しや金融政策への影響に注目しています。メキシコ中銀は、先日のタイやフィリピンのように利下げをしており、形式的には「利下げグループ」ですが、声明内容にややタカ派(金融引締めを選好)的なトーンも含まれています。次回(3月)の会合で利下げを継続するかはデータ次第と思われます。

まず、メキシコ中銀が19年8月から利下げを継続してきた背景を振り返ると、軟調なGDP(国内総生産)成長率、消費者物価指数(CPI)の落ち着き、ペソの安定があげられます。

例えば、GDP成長率は19年10-12月期は前年同期比マイナス0.3%とゼロ%を下回っています。また8.25%と過去の高水準の政策金利と、この半年ほどのペソ高を受け、インフレ率も低下傾向です。

メキシコ中銀は、今回の声明の中で経済見通しについて、足元の軟弱なGDP成長率を指摘すると共に、新型コロナウイルスの感染拡大は経済の下押し要因となる可能性も示唆しています。それでも、声明にややタカ派的なトーンが含まれていた最大の要因は今後のインフレ率上昇への懸念です。

メキシコ中銀は1月(総合)CPIが前年同月比3.24%と上昇していることを指摘すると共に、食料とエネルギーを除いたコアCPIがじり高となっている点を指摘しています。メキシコ中銀が19年11月に公表した四半期報告では、メキシコ中銀の見通しとしてコアCPIは19年7-9月期の3.8%から20年1-3月期の3.6%に低下を想定していました。しかし、足元のメキシコのコアCPIは3.73%と上昇していると声明で述べています。

次に、今回の会合の投票が全会一致であったことにも注目しています。メキシコ中銀は19年5月より後の会合で全会一致は無かったうえ、過去3回の会合では少なくとも一人のメンバーが0.5%の利下げを主張し、積極的な金融緩和を求める声がありました。今回の全会一致に、積極的な金融緩和を求めていた姿勢に、やや後退の兆しが見られます。

メキシコの実質金利は相対的に高く、利下げ余地は大きいうえ、新型コロナウイルスという新たな懸念要因もあり基本的に金融緩和姿勢は維持すると見られます。ただメキシコ中銀のインフレ目標(3%)を小幅ながら超えるなど状況への配慮も必要と見られることから、今後の金融政策は緩和ありきからデータ次第の運営にシフトする可能性も考えられます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議