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南アランドの期待と不安
梅澤 利文
2020/07/21

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概要

他の主要新興国通貨同様、南アランドは足元まで概ね回復傾向です(図表2参照)。南ア自身はもとより、世界各地で実施された金融並びに財政政策の下支えの効果と見られます。ただし水準としてはコロナ感染拡大前を下回っています。また、20日には世界保健機関(WHO)が、南アなどアフリカでの新型コロナウイルス感染拡大に懸念を示すなど、課題も山積みと思われます。



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南アフリカ:新型コロナウイルスの感染拡大で再び経済活動を制限

南アフリカ(南ア)は2020年7月12日、新型コロナウイルスの感染急増を受けて夜間の外出制限や、アルコール飲料の販売禁止を再開しました(図表1参照)。南アは6月から制限緩和を進めてきましたが、感染拡大を前にして、再び経済活動の制限に追い込まれました。

なお、南ア準備銀行(中央銀行)は7月23日に金融政策決定会合を開催する予定ですが、市場では0.25%の利下げが予想の中央値と見られます。

どこに注目すべきか:投資非適格、インフレ率、IMF、財政改革

他の主要新興国通貨同様、南アランドは足元まで概ね回復傾向です(図表2参照)。南ア自身はもとより、世界各地で実施された金融並びに財政政策の下支えの効果と見られます。ただし水準としてはコロナ感染拡大前を下回っています。また、20日には世界保健機関(WHO)が、南アなどアフリカでの新型コロナウイルス感染拡大に懸念を示すなど、課題も山積みと思われます。

南アは今年の3月にムーディーズ・インベスターズ・サービスの格下げで、3大格付け会社全てから投資適格級の格付けを失ったこと、また同時期にコロナの感染が拡大したことから南アの通貨ランドは急落しました。

しかし、通貨ランドは底打ちから回復に転じています。この主な背景としては、経済的には南アのインフレ率は5月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比で2.1%にまで低下したことから、政策金利の引き下げによる景気下支えが打ち出せたことがあげられます。

コロナ感染対策として3月末に導入された夜間外出禁止など厳格な経済制限は、6月には緩和されました。

なお、プラス、マイナスありますが南アは恐らく1980年代以来となる国際通貨基金(IMF)の資金を利用する模様です。報道では、比較的融資条件が緩やかとされるラピッド・ファイナンシング・インストルメントによる調達が計画されており、南アの市場からの資金調達圧力を減らす可能性があります。

ただ、ランドは今後課題に直面する可能性もあります。

まず、コロナの感染拡大懸念です。南アの新規感染者数は足元で1日1万2千から1万3千人で推移しています(図表1参照)。ブラジルやインドより少ないですが、南アの人口は6千万人弱で、ブラジルの3分の1強に過ぎず影響は懸念されます。また、医療体制も十分とは言い難く、再開された経済活動の制限が景気回復を遅らせる懸念はあります。

財政政策は拡大したいところですが、信用力悪化懸念もあり、財政改革にも取り組んでいます。南アの歳出で多いのは公務員の給与です。南ア政府は引き下げの意向ですが財政改革の先行きにやや不透明感も残ります。

景気下支えに金融政策への期待は高まります。南ア中銀は20年に2.75%政策金利を引き下げています。インフレ率の低下と景気下支えを受け、利下げはランドの悪材料となりにくい環境でした。しかし来年はインフレ率の上昇も見込まれます。

ランドのプラス面だけでなくマイナス面にも注意が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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