Article Title
エクアドルの格上げ事情
梅澤 利文
2020/09/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今日のヘッドライン2020年3月25日号で新興国の債務問題を取り上げた際、具体例としたのが産油国エクアドルでした。当時の原油価格下落と、新型コロナウイルスの感染拡大がエクアドル財政を直撃したからです。4月にエクアドルは選択的デフォルトとなりましたが、債務軽減と国際通貨基金(IMF)の融資合意で格上げとなりましたが、懸念は残ると見られます。



Article Body Text

エクアドル:格付け会社S&Pとフィッチがエクアドルを格上げ

格付け会社S&Pグローバル・レーティング(S&P)は2020年9月1日にエクアドルの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をSD「選択的債務不履行(デフォルト)」からB-へ格上げしました。見通しは安定的としています。

また、9月3日には、フィッチ・レーティングス(フィッチ)はエクアドルの長期発行体デフォルト格付けをRD (制限的デフォルト)からB-へ格上げしています。

どこに注目すべきか:選択的デフォルト、ステップアップ、EFF、選挙

今日のヘッドライン2020年3月25日号で新興国の債務問題を取り上げた際、具体例としたのが産油国エクアドルでした。当時の原油価格下落と、新型コロナウイルスの感染拡大(図表1参照)がエクアドル財政を直撃したからです。4月にエクアドルは選択的デフォルトとなりましたが、債務軽減と国際通貨基金(IMF)の融資合意で格上げとなりましたが、懸念は残ると見られます。

エクアドルについて、これまでの主な流れを振り返ります。エクアドルで新型コロナの感染は春に急拡大し、遺体の埋葬場所が不足するという、心が痛む話が報道されました。主力産業の石油も原油価格下落に直面、財政悪化から格下げが相次ぎ、4月に国債利子の返済猶予を債権者に求めたことから、フィッチとS&Pはエクアドルをデフォルトとしました。

その後、債権者とエクアドルとの間で返済条件の緩和について交渉を重ねた結果、高い参加率で合意に至ったことが今回の格上げの主な背景です。仮に合意に至らなければ、エクアドルは(恐らく)返済をお手上げするしかなかったでしょうが、緩和された返済条件であれば、当面は返済が行われそうです。格付け会社も2~3年はデフォルトリスクが低下したと分析しています。具体的にエクアドル債券(2040年7月償還)の利率を見ると合意前は10.75%でしたが、22年までは0.5%に引き下げられています。その後徐々に利率を上げ(ステップアップ)最後は6.9%に設定されました。

利子など返済条件緩和に加え、国際通貨基金(IMF)の支援融資合意も格上げの背景です。中期的な国際収支上の問題に対応する融資である拡大信用供与措置(EFF)についてIMFとエクアドルの交渉は一時停止していましたが、ようやく(スタッフレベルでの)合意に至り、65億ドルの融資が見込まれます。先の債権者が債務の緩和に合意する条件の一つにIMFからの融資が含まれていただけに、EFFは大変重要です。

ただ、エクアドルの経済は、新型コロナ感染拡大前から軟調です(図表2参照)。IMFからの融資のうちEFFは、新型コロナ対応で拡充された条件のつかない緊急融資でなく、財政規律など条件付きと見られます。エクアドルの現政権は比較的財政規律に前向きです。しかし、現政権は少数与党であるうえ、来年2月に選挙が予定されています。債券の利子が数年後には上昇することもあり、新政権の返済姿勢が注目されます。

なお、新興国の債務問題の背景は様々です。今回エクアドルのケースをご紹介しましたが、事情は国により異なり、別の国では、他の要因を考慮する必要もあると見ています。このテーマは今後も適宜フォローする予定です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ