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暗号資産市場、冬の時代は終わり春は来るのか
梅澤 利文
2026/04/21

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概要

ビットコインなどの暗号資産市場は、中東情勢の悪化などの逆風が続く中でも、需給改善や構造改革への期待、米大手金融機関の参入姿勢などで底堅さを見せた。足元では、米国の「クラリティ法案」成立への期待も市場の下支え要因のようだ。ステーブルコインの利息を巡る問題などを背景に銀行業界と暗号資産業界の対立が続いていたが合意の機運も見え始めた。今後も法案の進展が注目される。




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暗号資産市場、中東情勢が混乱する中で底堅さを見せた

暗号資産(仮想通貨)の過半の時価総額を占めるビットコインの価格は、今年3月から4月にかけ底堅さが見られ始めた(図表1参照)。中東情勢の悪化(米国とイスラエルがイランに対して開始した軍事行動後の一連の混乱)が顕著であった3月に多くの資産が下落した中、ビットコインは小幅ながらプラスを確保した。4月も上昇傾向だ。4月のビットコインの上昇は、中東情勢の緩和期待が背景なのは明らかだが、中東情勢とは別に、暗号資産市場固有要因も下支えしたようだ。

暗号資産の時価総額は3月に前月比プラスの伸びを確保した。この背景として需給改善や構造改革への期待といった暗号資産市場固有の要因が挙げられる。

暗号資産を下押ししていた市場の独自要因に変化の兆しも見られた

ビットコインに代表される暗号資産は25年10月ごろから「冬の時代」とでも呼ぶべき時を迎えた。価格変動が大きい暗号資産は総じて下落傾向だった。また、法定通貨に価値が連動する仕組みの「ステーブルコイン」などの暗号資産については、関連する重要法案の可決の遅れが懸念された。

ビットコインは25年10月初をピークに下落傾向となった。この下落の背景は、トランプ関税発言を懸念したビットコイン先物市場でのロスカット(大量清算)やETF(上場投資信託、主にビットコイン)からの資金流出、社債や株式発行等で調達した資金で暗号資産を購入するトレジャリー企業がビットコインなどの購入に消極的だったためである。

26年になってもビットコインは軟調な展開となった。次期米連邦準備制度理事会(FRB)議長候補(ケビン・ウォーシュ氏)の政策方針やFRBの利下げを巡る不透明感、AIの収益性に対する懸念による株式市場の下落などがビットコインの下押し要因となった。また、25年7月にジーニアス法とともに暗号資産に関する重要法案である「暗号資産市場構造法案」(以降、クラリティ法案)成立の遅れも嫌気された。米上院銀行委員会が1月半ばに審議の延期を発表した頃から雲行きが怪しくなった。クラリティ法案は昨年下院では可決されており、上院で可決されれば、暗号資産を取り巻くこれまでの場当たり的な規制上の分類が明確化されるだろう。それに伴い暗号資産市場の取引の活発化、市場の活性化が期待されていただけに、上院での可決の遅れはマイナス要因だった。

しかし、これらのマイナス要因に変化の兆しが現れた。例えば、大手トレジャリー企業は、筆者に根拠はわからないが底打ちと判断したようで、基本的に暗号資産の購入姿勢を強めている。

より注目したい変化としては、米大手投資銀行がETF市場などを通じて暗号資産関連ビジネスへ参入する姿勢を強めたことだ。モルガンスタンレーは26年1月にソラナや保有に見合った報酬獲得が期待されるステーキング型のイーサリアムの現物のETFの申請手続きを行った。また2月には暗号資産の保管業務(カストディー)を手掛けるライセンスの申請を行い年内にカストディ業務に本格進出する意向であるとの報道もあった。

暗号資産に慎重姿勢とみられていたゴールドマンサックスではあるが、4月にはETP(上場取引型投資商品)とオプションの売却を組み合わせた設計となっているETFを申請した。2024年1月に米証券取引委員会(SEC)が初めて現物ビットコインETFを11本承認し上場した時のような高揚感には程遠いが、足元でもETFなどによる暗号資産市場拡大の動きは続いているようだ。

クラリティ法案合意の不確実性の高さは暗号資産市場に影響を与えそうだ

成立が遅れているクラリティ法案に合意の兆しが見えてきたことも暗号資産市場全体の下支え要因と思われる。クラリティ法案は、ビットコインやステーブルコインなど暗号資産に関する規制の枠組みを整備するものだ。米国にはSECや米商品先物取引委員会(CFTC)などの監督機関が複数存在する。これまで暗号資産のうちのどの商品(ビットコインやステーブルコイン)を、どこが管轄するのか明確でなかった。クラリティ法案はこれを明確化することを目的とし、監督機関の明確化により暗号資産市場の活性化が期待されている。

クラリティ法案成立の期待と遅れに対するいら立ちは、米財務長官スコット・ベッセントが4月初にウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した記事に表れている。米国は株式や債券など伝統的資産や通貨ドルで圧倒的地位を築いてきた。デジタル資産の世界でも自動的に今の地位が保てる保証はない。デジタルの世界は変化が速い。ネットワークの開発者は規制の整備が進んでいるシンガポールやUAE(首都アブダビ)に進出する動きもあるとの指摘もある。

記事は米国の遅れている分野に具体的に言及していないが、筆者はトークン化証券が念頭にあると考えている。シンガポールでは通貨庁などを中心にプロジェクトを進め、トークン化証券の大半が既存の法的枠組みに組み込まれている。金融機関は既存の免許を活用して証券発行や保管などが可能となっている。米国は株式のトークン化などの分野が遅れており、焦りもあるように思われる。

クラリティ法案の成立が遅れている最大の理由はステーブルコインの利息を巡って、これを認めない銀行業界と、商品の魅力を確保するため必要性を訴える暗号資産業界が対立しているからだ。昨年成立したジーニアス法で、ステーブルコインの発行体が保有者に直接利息を提供することは禁止されている。しかし暗号資産交換所がステーブルコイン保有者に報酬を提供すること(例えばステーキング)などは禁止なのか明確でない。一方、銀行はこのような報酬が預金など既存ビジネスに深刻な影響を与えかねず、認めない立場だ。

最大手の暗号資産交換所は報酬禁止などに反発し、1月にクラリティ法案への支持を撤回した。以降、議論は平行線だったが、先のベッセント発言もあり反対の声は弱まり、合意を模索する方向へシフトし始めた。ただし、合意に向けた具体案は定まらず、クラリティ法案可決を明確には見通せない。それでも合意の可能性はこれまでより高まった印象だ。

 


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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