Article Title
南アフリカランドの変動要因
梅澤 利文
2020/09/23

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

南アフリカの状況を通貨ランドを通じて振り返ります。南アの経済指標は全般に悪化しており、債務問題は依然深刻で、不安定な電力供給という問題も未解決です。一方で、鉱物資源の生産回復や、新型コロナウイルスについては新規感染者数が減少傾向にあること、さらに金融緩和による景気下支えも期待されます。ただ、全体的には懸念要因により注意が必要と思われます。



Article Body Text

新興国通貨:新型コロナの対応後、ドル安を受け全般に底堅いが、大幅マイナスの国も

 米連邦準備制度理事会(FRB)が大胆な金融政策を、財政政策に共に公表した2020年3月23日から足元まで、主な新興国通貨の対ドル騰落率を図表1に示しています。

 高金利通貨で取引の自由度が比較的高いメキシコやインドネシアが上位にある一方で、債務問題などが懸念されるアルゼンチンやトルコが最下位グループとなっています。

 この半年ほど新興国通貨は全般に対ドルで上昇していたため、南アフリカは5.3%とプラスを確保していますが、順位としては下から数えたほうが早い位置にあります。

 

 

どこに注目すべきか:4-6月期GDP、財政問題、資源価格、都市封鎖

 南アフリカの状況を通貨ランドを通じて振り返ります。南アの経済指標は全般に悪化しており、債務問題は依然深刻で、不安定な電力供給という問題も未解決です。一方で、鉱物資源の生産回復や、新型コロナウイルスについては新規感染者数が減少傾向にあること、さらに金融緩和による景気下支えも期待されます。ただ、全体的には懸念要因により注意が必要と思われます。

 まず、南アの懸念要因から振り返ります。南アの4-6月期GDP(国内総生産)成長率は前年同期比マイナス17.1%と急落しました。前期比のGDP成長率は4-6月期がマイナス成長となったことから、4四半期連続でマイナスとなりました。コロナ感染拡大前から電力供給不安などを背景に軟調であった南ア経済が、コロナ感染拡大で、3月から厳格な都市封鎖政策を導入したことで成長率が急落しました。このため社会不安の要因でもある失業率は、1-3月期が30.1%でしたが、9月末に公表予定の4-6月期失業率は市場予想を見ると35%程度と悪化が懸念されています。

 財政問題も深刻です。電力など国営企業への支援策が財政悪化を引き起こしていたうえに、新たに新型コロナ対策として総額5000億ランド(約3.1兆円、対GDP比10%弱)が追加されるからです。コロナ対策は必要に迫られてのことだけに深刻さが浮かび上がります。

 一方、ランドを支える要因として南アの主力産業である鉱物資源の生産が回復傾向です(図表2参照)。金やプラチナは前年比でゼロ近辺と、中国などの景気回復を受け、持続性に懸念はありますが、鉱物生産に回復が見られます。

 新型コロナの感染者も累計では約66万人と高水準ですが、新規感染者数は7月半ばから減少傾向で、足元は1000人強での推移となっています。南アは都市封鎖を5段階に分類した警戒レベルで示していますが、段階的に警戒レベルを引き下げ、経済活動が徐々に戻りつつあります。

 ランドを支える要因もありますが全体的にはランド安要因に注意が必要と思われます。17日には南ア準備銀行(中央銀行)は金融政策決定会合で市場予想(利下げ)に反し政策金利の据え置きを決定しました。南ア中銀も今回の会合で経済成長見通しを引き下げており、成長率の下方修正する中での据え置きは、南ア中銀がランド安に対して警戒心をもって政策運営をしていることの現われと見ています。

梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ