Article Title
ECB議事要旨に見る次回の金融政策の再調整
梅澤 利文
2020/11/27

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

欧州中央銀行(ECB)が次回の政策理事会(12月10日)で金融政策を変更するのか、しないのかは市場で議論の対象でなく、何をするのかが関心の的となっています。ECBメンバーの最近の発言から、金融政策の変更(再調整)の中心はPEPPの期間延長と貸出を下支えするTLTROになることが想定されます。これらの政策の変更のポイントなどを述べます。



Article Body Text

ECB議事要旨:10月の政策理事会で、次回12月の政策変更を明確に示唆

欧州中央銀行(ECB)は2020年11月26日に議事要旨(10月28、29日の政策理事会)を公表しました。ECBメンバーが繰り返し表明していることですが、金融政策の再調整が必要だとの認識で広く合意したことが示されています。

なおECBのラガルド総裁は11月11日のECBの年次フォーラムで、「あらゆる選択肢が再調整の対象ではあるが、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)と条件付き長期リファイナンスオペ(TLTRO)は現在の環境での効果が証明されており、新型コロナウイルスの感染拡大状況に合わせてダイナミックに調整することが可能と述べています。

 

どこに注目すべきか:政策理事会、PEPP、TLTRO、貸出サーベイ

ECBが次回の政策理事会(12月10日)で金融政策を変更するのか、しないのかは市場で議論の対象でなく、何をするのかが関心の的となっています。ECBメンバーの最近の発言から、金融政策の変更(再調整)の中心はPEPPの期間延長と貸出を下支えするTLTROになることが想定されます。これらの政策の変更のポイントなどを述べます。

まずは、3月に導入されたPEPPです。従来の資産購入プログラム(APP) と比較して資産配分などの制約が少なく、緊急時対応に向いた政策オプションです。ラガルド総裁はもとより、メルシュ理事などもPEPPの拡張を支持しています。

次にPEPPの現状を整理すると、PEPPはユーロ圏の国債や社債などの債券を購入する政策で、現在の期限は21年6月末です。購入上限は1兆3500億ユーロとなっています(図表1参照)。20年10月末の累計額は約6300億ユーロです。21年6月に購入枠(1兆3500億ユーロ)を使い切ると仮定すると、今後毎月約900億ユーロ程度の購入(図表1の棒グラフメッシュ部分)を続けることになります。この金額は4月から10月までの実際の平均購入額に近い数字です。

市場が予想する12月のECB理事会でのPEPPの変更(再調整)は、期間の延長とそれに伴う累計金額の増加です。コンセンサスは21年末まで半年延期し、概ね5000億ユーロ程度購入枠を引き上げると市場は見込んでいるようです。

次に、政策変更のもうひとつの柱であるTLTROについてです。TLTROについては仕組みというよりも主に必要性について述べます。ECBのチーフエコノミストのレーン理事は26日にスピーチで資金調達環境が厳しくなる初期の兆候について懸念を表明しました。そこでECBの最新のレンディングサーベイ(貸出調査)をみると、ユーロ圏の企業(非金融)に対する貸出姿勢が急速に厳格(引締め)的となっていることがわかります(図表2参照)。そもそもECBが政策の再調整をする背景は欧州における新型コロナの感染再拡大に対応して、足元緩和されはじめているとはいえ、経済活動を制限したことで想定以上にユーロ圏の景気が悪化したからです。貸出姿勢の変化は信用リスクへの懸念の高まりを反映していると見られます。ユーロ圏の経済構造と現状を踏まえると、 ECBメンバーのTLTRO再調整に対する期待や評価は、かなり高いように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが

2月の米雇用統計は波乱材料とならず