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回復ペースが鈍化した中国の主要経済指標と今後の動向
梅澤 利文
2021/06/18

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概要

今日のヘッドラインの21年5月18日号では4月の中国の主要統計を取り上げました。5月同様、景気回復は持続するも勢いが低下しました。今回、勢い低下の背景を整理すると共に、年後半の中国の景気動向を占います。結論を先に述べると、景気下押し要因の多くは短期的と思われます。こうした中、中国当局は景気安定を重視した政策運営を続けると思われます。



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中国5月の主要統計:市場予想を軒並み下回り、回復ペースの減速感が鮮明に

中国国家統計局は2021年6月16日に、中国の主要統計である小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資の5月分のデータを公表しました。

小売売上高は前年同月比12.4%増と、市場予想(14.0%増)、前月(17.7%増)を下回りました(図表1参照)。鉱工業生産も同8.8%増と、市場予想(9.2%増)、前月(9.8%増)を下回りました。固定資産投資は年初来前年比で15.4%と、市場予想(17.0%増)、前月(19.9%増)を下回りました(図表2参照)。中国の主要経済指標は軒並み市場予想を下回り、景気回復のペースに減速感が見られました。

どこに注目すべきか:小売売上高、固定資産投資、鉱工業生産

今日のヘッドラインの21年5月18日号では4月の中国の主要統計を取り上げました。5月同様、景気回復は持続するも勢いが低下しました。今回、勢い低下の背景を整理すると共に、年後半の中国の景気動向を占います。結論を先に述べると、景気下押し要因の多くは短期的と思われます。こうした中、中国当局は景気安定を重視した政策運営を続けると思われます。

まず、年初来前年比で15.4%増と前月から低下した固定資産投資を振り返ります。内訳を見ると、製造業関連の投資は5月は20.4%増と比較的堅調です。高水準の生産活動が続いていたことなどが背景と思われます。

一方で、昨年堅調であった不動産投資と、投資活動の下支え役を期待されていたインフラ投資は勢いが低下しています(図表2参照)。5月のレポートで指摘したように、中国当局が懸念する住宅投機の抑制策などを背景に不動産投資の勢いが低下したと見られます。

次に生産活動として鉱工業生産を見ると、5月は8.8%増と、小幅ながらに市場予想を下回りました。鉱工業生産がこれまで堅調であったのはマスクなど新型コロナウイルス関連製品の輸出の好調が背景と見られます。ただ6月7日に公表された中国の5月の輸出は反対にマスクなどが落ち込み伸び悩みました。もっとも、見方によっては生産ペースが正常化に向かう過程とも見られます。なお、中国南部の主要港湾都市で新型コロナの感染が拡大し供給が滞ったことも生産を低下させた要因と思われますが、こちらも短期的な問題であるとみています。

個人消費を占う小売売上高も前年比で市場予想を下回りました。昨年までの住宅投資やこれまでの輸出などの伸びが正常化に向かうとすると、中国の次なる成長の押し上げ要因として消費に期待がかかりますが、やや物足りない数字に見えます。ただ、小売売上高は変動の大きい前年との比較を、名目値で行っています。コロナ前の19年を基準に、インフレの影響を除いた実質ベースで見ると4月から5月にかけ改善が見られます。中国の失業率は昨年3月から足元まで低下(雇用市場の改善)傾向なことや、中国の移動データが春先まで新型コロナなどの影響で低下しましたが、回復傾向であることと整合的です。なお、最近、中国の若い世代の消費性向が低下したという報道(「寝そべり族」とも呼ばれています)を見かけます。興味あるトピックですが、筆者はまだ分析出来ていません。

景気回復の勢いが低下し、成長が多少鈍くなっても当局は元に戻す無理な引き上げを控えている様子です。中国は今年共産党100周年というイベントが控えますが、来年は習近平体制の継続がかかる5年に1度の党大会という最重要イベントも控えています。この中で当局は無理を重ねて高成長を目指すより、安定を重視しているように思われます。住宅投機の抑制や、不透明な融資の整理などを進めつつ、中小企業などぜい弱なセクターには支援を続けるなどバランスを優先させた安定重視の成長路線を年後半も継続すると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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