Article Title
7月米雇用統計、前へ
梅澤 利文
2021/08/10

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

7月の米雇用統計は就業者数の増加や失業率の低下を見ても、米労働市場の改善を示す内容でした。米連邦準備制度理事会(FRB)が債券購入額の縮小(テーパリング)準備を前進させることを支持すると思われます。実際、雇用統計後のアトランタ連銀総裁は改善ペースが続けばテーパリングの条件が整う可能性を示唆しています。



Article Body Text

米7月の雇用統計:軒並み市場予想を上回る改善となり米雇用市場の回復が鮮明に

米労働省が2021年8月6日に7月の雇用統計を発表しました。事業所調査に基づく非農業部門の就業者数は、娯楽接客業(接客)部門などにけん引され、前月比94.3万人増と市場予想の約85万人増、前月の93.8万人増(速報値の85万人増から上方修正)を上回りました(図表1参照)。

7月の失業率は5.4%と市場予想の5.7%、前月の5.9%を下回りました(図表2参照)。平均時給は前月比0.4%増と、市場予想の0.3%増を上回り、前月の0.4%増に並びました。

どこに注目すべきか:テーパリング、娯楽部門、季節調整、失業率

7月の米雇用統計は就業者数の増加や失業率の低下を見ても、米労働市場の改善を示す内容でした。米連邦準備制度理事会(FRB)が債券購入額の縮小(テーパリング)準備を前進させることを支持すると思われます。実際、雇用統計後のアトランタ連銀総裁は改善ペースが続けばテーパリングの条件が整う可能性を示唆しています。

まず、前月比94.3万人増と堅調であった非農業部門の就業者数を部門別に見ると、娯楽部門が前月に続き好調で38万人増でしたが、うち飲食業が25万人増とレストランなど対面サービスの回復が示されています。宿泊業も7.4万人増と回復を維持し、エンターテイメント関連も7月は5.3万人増と、幅広く回復の継続が見られます。

なお、米労働省の声明によると、娯楽部門の就業者数を新型コロナウイルス前の20年2月と比べると、まだ170万人程度、1割程度下回ると指摘しています。

娯楽部門以外で就業者数を押し上げたのは政府部門です。政府部門を連邦、州、地方の各政府に3分すると、連邦と州は合計して1万人の増加に過ぎず、地方政府の23万人増が大半を占めています。その地方政府でも教育が22万人増となっています。

教育関連が増えた背景として、学校再開に備えた教員の採用の動きや、夏休みの補習など新型コロナの影響で通常のパターンと大きく異なっていることが指摘されています。テクニカルな話ですが、このことが季節調整値に影響(実際より高い数字)を生み出した可能性があります。この季節調整の問題や、学校再開後に雇用が増えるか、また新型コロナ対策として週300ドルを上乗せする失業給付の加算は、すでに終了させた州もありますが、9月初旬には全て終わる予定で、これが雇用の動きにどのように影響するかなどは不透明要因です。

娯楽、政府以外にも、教育・医療部門や事業支援など前月並みの回復を維持するなど、雇用の回復は鮮明になりつつあります。ただ、金融当局者は早期の引き締めを主張する人であっても、先の不透明要因を確認する姿勢と思われます。

次に失業率も7月は大幅に低下し、雇用市場の改善を示しました。しかも経済的理由によるパートタイムなどを失業者に加えたU6(通常の失業率はU3)失業率も低下しており、質の点でも失業率に改善が見られました(図表2参照)。そして、裏腹ではありますが、生産年齢人口に占める就業者の割合である就業率も58.4%と上昇(改善、図表2参照)しました。7月の雇用統計では労働参加率は61.7%で小動きに留まりましたが、今後は人口動態の影響を受けにくい就業率の改善が重視される可能性も考えられます。

最後に賃金についても、持続性の確認は必要ですが、想定以上に改善したと見ています。結局、7月米雇用統計は、就業者、失業率、賃金のどれをとっても、確認事項は残りますが、テーパリングに向けた準備を支持する内容と思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応

植田総裁のインタビュー、内容は利上げの地均し?

フランス政局混乱、何が問題で今後どうなるのか?

11月FOMC議事要旨、利下げはゆっくり慎重に

「欧州の病人」とまで言われるドイツの論点整理