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ECBは遠く離れて、米国を後追いか?
梅澤 利文
2021/09/01

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概要

ユーロ圏のインフレ率は、米国ほどではないにせよ、インフレ目標を超える水準となっています。背景は昨年の価格低下の反動であるベース効果やテクニカル要因など、いずれも一時的要因と考えられます。ただ、欧州中央銀行(ECB)の一部メンバーからは物価に対し懸念の声もあり、市場では小幅ながら足元、ユーロ高やユーロ圏国債利回りの上昇が見られます。



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ユーロ圏インフレ率:8月の消費者物価指数(速報値)は前月を上回った

8月ユーロ圏の消費者物価指数(HICP、速報値)は前年同月比3.0%増と前月の2.2%増、市場予想の2.7%増を上回りました(図表1参照)。2011年11月以来の高水準です。コアHICPも前年同月比1.6%増と、市場予想の1.5%増、7月の0.7%増を上回りました。

なお、前月比ベースでも+0.4%増と7月のマイナス0.1%からプラスに転じ、上昇の勢いが確認されました。

どこに注目すべきか:ユーロ圏、インフレ率、一過性、PEPP、理事会

ユーロ圏のインフレ率は、米国ほどではないにせよ、インフレ目標を超える水準となっています。背景は昨年の価格低下の反動であるベース効果やテクニカル要因など、いずれも一時的要因と考えられます。ただ、欧州中央銀行(ECB)の一部メンバーからは物価に対し懸念の声もあり、市場では小幅ながら足元、ユーロ高やユーロ圏国債利回りの上昇が見られます(図表2参照)。

日米欧(ユーロ圏)の金融政策を比較すると、債券購入縮小に向かう米国と、当面変更が想定されない日本とユーロ圏に分類することがあります。基本的にこのわけ方は正しいとも見られますが、日本と同じ程度にユーロ圏が現状の金融政策を維持するというわけでもなさそうです。

まずインフレ率の水準が異なります。日本の7月の消費者物価指数(CPI) はマイナス圏となっています。先行性のある8月の東京CPIもほぼ水面下です。一方ユーロ圏のインフレ率はベース効果や、税制変更による下押し効果が失われたことなど上昇要因は「一過性」と見られます。それでもインフレ率は総合で見ると2%を超えています。対応時期は遅くとも、米国の金融政策運営に似る可能性があります。

なお、最近まで市場ではユーロは下落(ユーロ安)し、ユーロ圏の指標と見られるドイツ国債利回りは低下していました。背景は主な輸出先である中国の景気鈍化懸念、ユーロ圏の景況感指数の改善に頭打ちが見られたこと、新型コロナウイルスの感染拡大、ドイツの選挙動向の不透明感、そしてECBの緩和的な金融政策です。

これらの要因に大きな変化は見られませんが、一部に注意を払うべき変化も見られます。例えばECBの緩和姿勢ですが、8月26日に公表されたECB議事要旨(7月開催分)には、最終的にインフレ期待を目標付近に固定することに成功すれば、必ずしも「より低い金利をより長期化」させることを意味しないと述べられています。

7月の理事会後に、ECBは新たなガイダンス(今後の金融政策の方針)で新戦略で定めた新たなインフレ目標を持続的に達成できることが明確になるまで、超緩和的政策を続けると表明しました。このためECBは何もしないと思われがちです。確かに政策金利の変更は当面ないと思われます。しかし、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の債券購入政策については議論の余地が残されていると思われます。足元、ECB政策委員会メンバーであるオランダやオーストリアなど一部の中銀総裁は債券購入の縮小の必要性にまでコメントしています。

確かにユーロ圏の景況感指数は上昇が鈍化したとはいえ、相対的に高水準で推移しています。また欧州連合(EU)は8月31日に域内の成人の7割が新型コロナのワクチン接種を終えたと発表するなど以前に較べ状況は改善していると見られます。比較的中立的(または緩和的)なフランス中央銀行のビルロワドガロー総裁はPEPPについて、9月の会合で決定する緊急性はないとしても、PEPPの今後などについて議論の必要性を指摘しています。たとえ決定が無いとしても、9月9日開催のECB理事会における検討内容には注目が必要とみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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