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米国財政政策、重要な局面に差し掛かる
梅澤 利文
2021/09/29

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概要

米国の財政年度は9月30日が年度末で、10月1日からは新年度となります。米国では新年度入りしてからも財政を運営する権限の確保に向けた暫定予算(つなぎの予算)と連邦法定債務上限を一時的に適用しない法案が上院で否決されました。これらの動きにより政府機関閉鎖の懸念などが高まりつつあり、市場は動向を注視しています。



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米国財政政策:年度末を前に、民主党と共和の対立が鮮明に

米上院共和党は2021年9月27日、今年12月までの暫定予算と2022年12月まで米連邦政府の債務上限の適用を凍結する措置を一体にした法案(抱き合わせ法案)について、上院本会議での採決を阻止しました(図表1参照)。

 なお、民主党は28日、債務上限の引き上げを単純過半数票で可決できるよう全会一致合意の確保を試みたものの米上院共和党の反対で失敗に終わり、共和党は民主党の動きを2日連続で阻止したこととなります。

どこに注目すべきか:暫定予算、法定債務上限、政府機関閉鎖

米国の財政年度は9月30日が年度末で、10月1日からは新年度となります。米国では新年度入りしてからも財政を運営する権限の確保に向けた暫定予算(つなぎの予算)と連邦法定債務上限を一時的に適用しない法案が上院で否決されました。これらの動きにより政府機関閉鎖の懸念などが高まりつつあり、市場は動向を注視しています。

現在も続く米国の財政を巡る攻防のポイントを押さえるため、まず簡単に最近までの流れを振り返ります。

米国連邦債務は上限が定められています。ただ、今年の7月末までは適用が除外されていました(図表1参照)。しかし、8月からは新たな債務上限による財政運営が求められます。債務上限を超える支出が必要な場合は債務上限を引き上げるか、7月以前のように債務上限適用を除外する期間を設定する必要があります。

次に法案としては、バイデン大統領が提案した米国雇用計画や米国家族計画を①米国投資法案(超党派でインフラ投資に新規で5500億ドル規模を支出)と②米国投資法を除いた政策で構成される3.5兆ドル規模の民主党単独法案(並びに22年度歳出法案)の2本立ての成立を民主党は目指しています。

しかし、9月30日を前に来年度予算が成立していないことから年度明けの財政権限の確保が必要です。12月3日までの暫定予算と債務上限を一時的に適用除外する法案は否決されたため、別の対応が必要となりました。

債務上限については、米国は現在新たな借金が出来ないため手持ちの資金でやり繰りしているイメージですが、イエレン米財務長官は10月18日前後で資金繰りが尽きると述べています。また、暫定予算が不成立の場合は政府機関閉鎖が想定されます。両党とも回避に向けギリギリの交渉を続けていますが、②の民主単独法案3.5兆ドル規模の交渉を前に、共和党は民主党が1度使える財政措置を暫定予算で使ってしまうことを意図していると見ています。共和党は財政政策運営の遅れによる与党へのダメージ戦略と、今後の交渉を有利に進める方針と思われます。

これだけであれば民主党と共和党の対立というわかりやすい構図です。今回話が複雑なのは民主党の中にも根深い対立があることです。上院で共和と民主の議席数は拮抗しており、民主党議員が1人でも法案に反対すれば成立が危ぶまれます。②の民主党単独法案では3.5兆ドルという規模と増税に反対するのは民主党上院のマーティン議員やシネマ議員です。両候補はそれぞれウェストバージニア州、アリゾナ州と共和党が地盤の州からの選出されており、共和党寄りの穏健派で、財政規模の縮小や増税に反対する姿勢です。

一方、民主党の下院にはジャパル下院議員率いる民主党の進歩派による議員連盟(CPC)があります。CPCは上院で共和党と民主党の超党派で可決した米国投資法案の下院での採決に難色を示しています。CPCは約95名からなり、過半数が①の先行採決に否定的で、 ②の民主党単独法案の成立を先に求めています。残されたわずかの時間で民主党内の対立をいかに解消するか指導力が求められています。

バイデン大統領の支持率は回復が見られない一方、不支持が徐々に増えています。バイデン政権の今後を占う上で、重要な局面に直面しており、今後の動向に注視が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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