Article Title
中国製造業PMIの悪化と電力不足問題
梅澤 利文
2021/10/01

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

中国の9月のPMIは非製造業PMIが改善した一方で、製造業PMIは悪化するという2点が注目されますが、より関心を引いたのは製造業PMIが景気拡大と縮小の分かれ目の目安となる50を下回ったことです。新型コロナウイルスの影響で35.7に低下した昨年2月以来のことになります。製造業PMIが悪化した背景として中国の電力不足が悪影響を与えたと考えられます。



Article Body Text

中国9月のPMI:非製造業は大幅に改善するも、製造業は昨年2月以来の水準に低下

中国国家統計局が2021年9月30日に発表した9月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.6と、市場予想の50.0、前月の50.1を下回りました(図表1参照)。50割れは20年2月以来です。一方、建設業とサービス業を対象とする非製造業PMIは53.2と、予想の49.8、前月の47.5を大きく上回りました。

なお、財新伝媒が発表した中国9月の財新製造業PMIは50.0と、市場予想の49.5、前月の49.2を上回りました。

どこに注目すべきか:製造業PMI、新型コロナ、商品価格、電力不足

中国の9月のPMIは非製造業PMIが改善した一方で、製造業PMIは悪化するという2点が注目されますが、より関心を引いたのは製造業PMIが景気拡大と縮小の分かれ目の目安となる50を下回ったことです。新型コロナウイルスの影響で35.7に低下した昨年2月以来のことになります。製造業PMIが悪化した背景として中国の電力不足が悪影響を与えたと考えられます。

まず、9月に非製造業PMIが改善した背景を確認します。中国ではこの夏、南京市など重要拠点がある江蘇省をはじめ各地で散発的に新型コロナの感染が見られました。中国当局のゼロコロナ政策で厳格な対策が実施されましたが足元では概ね対策が緩和されました。また、8月の洪水被害からの回復も非製造業PMIを押し上げたと見られます。

一方で、製造業PMIは悪化が続き21年3月の51.9から6ヵ月連続で前月を下回っています。中国の製造業の動向を反映しやすい中国工業利益は3月から8月迄急低下しています。中国国家統計局は工業利益が悪化を続ける理由として、商品(コモディティ)価格の上昇、国際物流の高コスト、半導体不足などの問題が依然として企業コストを押し上げていると説明しています。鉄鉱石など個別の商品の中には下落に転じたものもありますが、中国の生産者物価を見る限り8月は前年比9.5%と高水準です。一方消費者物価指数は8月が同0.8%で価格転嫁が進んでないと見られ、マージンの悪化が想定されます。

製造業PMIについて中国国家統計局の声明では工業利益悪化と同様な理由と、エネルギー多消費型産業の活動鈍化が製造業PMIを押し下げた要因の1つと指摘しています。この問題をさらに悪化させる要因として中国の電力不足が注目されています。報道によると中国では少なくとも20の省・自治区・直轄市が9月に電力の使用が制限されています。

この背景は石炭不足、もしくは石炭生産の低下です(図表2参照)。中国の国内発電の7割程度が石炭由来と言われ、電力需要と石炭生産は足並みを揃えてきました。しかし20年9月に習近平国家主席が30年にCO2排出ピークアウト、60年にカーボンニュートラルとの目標(3060目標)を示し石炭発電に逆風が吹いています。また足元では具体的な対応が見られ、西安市は今年7月に脱石炭都市を目標とし複数の石炭発電施設を停止させています。別の例では、石炭や石炭のクリーン利用プロジェクトの新規案件に融資を渋る動きが一部金融機関に見られ始めたようです。中国の電力需要と石炭生産のギャップ拡大を物語る話と思われます。

もっとも、あくまで報道ベースですが、中国指導部は国有の鉱業各社に対し、石炭の年間割り当て量を超えてでも年内は石炭をフル稼働で生産するよう命じたと伝えられています。今後の暖房需要や年末商戦を前に何とか電力不足を解消したいという気持ちのあらわれと見られますが、極端に振れる政策運営にリスクは無いのか当面注視が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議