Article Title
FOMC、正常化に向けた正式発表と今後の課題
梅澤 利文
2021/11/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

今回のFOMCで資産購入ペースの減速(テーパリング)が表明されました。市場予想に沿う内容でサプライズはありませんでした。一方、利上げ時期については、微妙に表現を変えながらも、基本的には忍耐強くインフレが落ち着くのを待つ姿勢が示されました。ただ、インフレ動向次第では前倒しの可能性を示唆するなど、利上げ時期については不確実性が残りました。



Article Body Text

11月FOMC:11月のテーパリングは十分に織り込まれており、市場の混乱は回避

米連邦準備制度理事会(FRB)は2021年11月3日に米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を公表し、大方の市場予想通り量的金融緩和の縮小(テーパリング)を11月から始めると公表しました。

FRBは20年3月に量的緩和を再開してから足元まで、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を同400億ドル購入してきました。FRBは毎月計150億ドル(米国債を100億ドル、MBSを50億ドル)減額し、11月から国債を少なくとも月700億ドル、MBSを月350億ドルへと購入ペースを減速するとしています。

どこに注目すべきか:FOMC、テーパリング、一時的と想定される

今回のFOMCで資産購入ペースの減速(テーパリング)が表明されました。市場予想に沿う内容でサプライズはありませんでした。一方、利上げ時期については、微妙に表現を変えながらも、基本的には忍耐強くインフレが落ち着くのを待つ姿勢が示されました。ただ、インフレ動向次第では前倒しの可能性を示唆するなど、利上げ時期については不確実性が残りました。

まず、金融政策を声明文で再確認すると、テーパリングは11月から開始し、11月後半に国債100億ドルとMBSを50億ドル分縮小するとした上で、12月についても、国債の保有を少なくとも月に600億ドル、 MBSの保有を少なくとも月300億ドルそれぞれ増やすと数字を明記して、国債購入は12月も100億ドル、MBSは50億ドル、購入額を減額することを示唆しました。金融政策を声明文で説明するときは簡潔に述べられることが多いですが、毎月の購入額を具体的に示すことで、(誤った)憶測を防ぐことに注意を払っているようにも見受けられます。改めて、FRBが2013年のテーパータントラム(バーナンキFRB議長(当時)がテーパリング開始の意向を表明したことで金利が急上昇した)は想定通りに回避されました。テーパリング終了時期は、調整が無ければ、来年中頃と見られるのも市場予想通りで、FOMC後の米国債市場の反応も小幅にとどまりました(図表1参照)。

一方で、不確実性が残るのが利上げの時期です。不確実性を生み出す要因のひとつが「一時的」と表現してきたインフレ率が徐々に長期化していることです(図表2参照)。そこで今回の声明文では一時的と「想定される」要因と表現を変更しました。これは忍耐強くインフレが落ち着くのを待つ姿勢を正当化するための調整と見られます。パウエル議長の会見から判断すると、一時的には時間的な捉え方(例えば数ヵ月といった意味)と、インフレ率が上昇してもいつかは下がるという捉え方があると見られます。今回の表現の変更は時間的な柔軟性の高い後者の解釈を前面に押し出すことを意図していると見られます。もっとも、数ヵ月で終わると思っていたインフレが思ったより長期化したのでこれを正当化したというのが、本音なのかもしれませんが。

なお、パウエル議長はインフレが落ち着く時期を来年の4-6月期または7-9月期と述べています。インフレを想定する期間も前回のFOMCに比べ徐々に長期化させているようにも思えます。市場はインフレ懸念を深読みし、22年末迄に2回程度の利上げを想定しています。一方、9月のFOMCでは22年末までの利上げを予想したFOMC参加者としない参加者が共に9人で拮抗していました。FRBは今後、利上げ時期を巡る市場と当局の想定の違いを埋め合わせる必要があります。混乱無くテーパリング開始を述べたことを賞賛される暇も無くFRBは次の課題に取り組むことが求められそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応

植田総裁のインタビュー、内容は利上げの地均し?

フランス政局混乱、何が問題で今後どうなるのか?

11月FOMC議事要旨、利下げはゆっくり慎重に

「欧州の病人」とまで言われるドイツの論点整理