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利上げ姿勢が明確だったブラジル中銀
梅澤 利文
2021/12/09

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概要

ブラジルの11月のインフレ率は前年比約10.7%の上昇となる中、ブラジル中銀は利上げによるインフレへの対応姿勢を維持しました。もっともブラジルのGDP(国内総生産)成長率は7-9月期が前期比マイナス0.1%と、2四半期連続のマイナス成長と苦しい状況です。それでもブラジル中銀は次回会合での同程度の利上げを示唆しており、インフレ対応を当面続ける見込みです。



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ブラジル中央銀行:引き続き高インフレに対応する姿勢を維持

ブラジル中央銀行は2021年12月8日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通り政策金利を1.5%引き上げて9.25%にすることを全会一致で決定しました。利上げは今年になり7会合連続となります(図表1参照)。

なお、8日(現地時間ベース)には他の中央銀行(インド、ポーランド、カナダ)でも金融政策決定会合が開催されました(図表2参照)。インドは成長重視の姿勢ですが、ポーランドは利上げ、カナダは据置きながらフォワードガイダンス(将来の金融政策の指針、FG)で利上げ姿勢を示すなど、総じてタカ派(金融引締めを選好)姿勢が見られました。

どこに注目すべきか:電力価格、レアル安、インフレ率、景気後退

ブラジルの11月のインフレ率は前年比約10.7%の上昇となる中、ブラジル中銀は利上げによるインフレへの対応姿勢を維持しました。もっともブラジルのGDP(国内総生産)成長率は7-9月期が前期比マイナス0.1%と、2四半期連続のマイナス成長と苦しい状況です。それでもブラジル中銀は次回会合での同程度の利上げを示唆しており、インフレ対応を当面続ける見込みです。

ブラジル中銀のタカ派姿勢、別の言い方としてインフレへの懸念は声明文の見通しにも示されています。前回(10月)の会合でも1.5%と大幅な利上げを決定しましたが、インフレ見通しはさらに引き上げられています(悪化)。21年、22年のインフレ率を前回はそれぞれ9.5%、4.1%を想定していましたが、今回のインフレ率の見通しは21年が10.2%、22年が4.7%と上方修正されています。レアル安や渇水により電力価格上昇(ブラジルは大半が水力発電)などを背景とした物価上昇傾向が続いていることを考慮すればインフレ率見通しの上方修正は現実的な対応と思われます。

次に、ブラジル中銀の政策金利の想定を確認すると、前回は22年のピークが9.75%を示唆していましたが、今回の声明では22年のピークには政策金利を11.75%にまで引き上げることが目安として想定されています。なお、政策金利の想定はあくまで想定で、約束ではなく、今後の動向次第で異なる決定が行われる可能性はありますが、前月から来年の利上げ見通しを2%程度引き上げた点でインフレ対応への強い姿勢がうかがえます。なお、ブラジルは来年10月に大統領選挙が予定されています。再選を目指すと見られるボルソナロ大統領はともかく、対立候補も確定しない段階での財政拡大懸念がレアル安要因となっています。

ブラジル中銀の来年のインフレ率の想定は4.7%で一応低下を見込んでいます。一方で22年末の政策金利の想定を見ると11.25%と、ピークから0.5%の小幅の引き下げに留まっています。インフレ率が低下しても急速に金融緩和へ転換させない運営が想定されます。

さて、ブラジルの成長率は2四半期連続のマイナス成長で形式的には景気後退と見られます。もっとも、名目GDP成長率を見ると7-9月期は前年同期比で17.3%となっており、大幅なインフレ率が実質成長率を押し下げる構図となっています。インフレへの対応の優先度が高いように思われます。

来年は米国の利上げが見込まれています。米国に追随して先進国、新興国問わず全般に金融引締め傾向となることを見込んでいます。筆者はインドも来年前半に利上げに転じると見ています。先行して利上げを開始したブラジル中銀ですが、手綱を緩める時期はまだ先のことと見られます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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