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ドイツ新政権が直面しそうな課題
梅澤 利文
2021/12/10

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概要

今日のヘッドライン21年11月25日号で述べたとおり、ドイツの新首相にショルツ氏が選出されました。前回(17年)の議会選挙では新政権発足まで半年程度と時間がかかったことに比べれば、ショルツ新政権はスムーズな発足であったと見られます。ただ今後ドイツが直面すると思われる課題は多く、政策運営がスムーズにいくのか、見守る必要がありそうです。



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ドイツ新政権:3党による連立政権がショルツ新首相のもと本格始動

ドイツ連邦議会は2021年12月8日、9月26日の独連邦議会総選挙で第1党になった中道左派、ドイツ社会民主党(社民党、SPD)のオラフ・ショルツ氏(63)を賛成395・反対303・棄権6の賛成多数で新首相に選出しました。

新政権は、社民党、環境政党の緑の党、リベラルの自由民主党(FDP)の3党による連立政権(各党のイメージカラーの組み合わせから「信号連立」と呼ばれる)が本格的に始動することとなります。

どこに注目すべきか:独新政権、新型コロナ、インフレ、ロシア問題

今日のヘッドライン21年11月25日号で述べたとおり、ドイツの新首相にショルツ氏が選出されました。前回(17年)の議会選挙では新政権発足まで半年程度と時間がかかったことに比べれば、ショルツ新政権はスムーズな発足であったと見られます。ただ今後ドイツが直面すると思われる課題は多く、政策運営がスムーズにいくのか、見守る必要がありそうです。

まず、目先の問題に新型コロナウイルスへの対応があげられます。足元で公表されたドイツの景況感指数のうち、半年程度先の動向を想定する期待指数に鈍化が見られます(図表1参照)。

期待指数が鈍化した理由は主に新型コロナウイルスの感染再拡大です。ドイツは足元で新型コロナウイルスの感染拡大第4波に直面しています(図表2参照)。ドイツのワクチン完全接種の割合は足元約69%です。8割を超えるスペイン、7割を超えるイタリアなどに比べ伸び悩んでいます。ワクチン接種に懐疑的な人が多い東欧と地理的に近い旧東ドイツ地区での伸び悩みが指摘されています。

3党連立の新政権は新型コロナ対策として経済活動の停止などには消極的と見られる一方、新政権は新型コロナ対応のキーパーソンとして保健相ラウターバッハ氏を任命しました。同氏はワクチン接種に積極的なだけに、今後ドイツの接種比率が上昇することを期待する声もある一方で、早くも対立が懸念されています。

インフレへの対応は未知数です。インフレへの対応は欧州中央銀行(ECB)の担当ですが、財政政策もインフレに無関係ではありません。そのような中、9日に就任したトンカー新財務副大臣は恒久的なインフレリスクへの懸念を指摘しています。インフレ圧力は恐らく一時的とするECBの見解とは異なります。年末で退任するワイトマン連邦銀行(中央銀行)総裁もインフレへの懸念を指摘していただけに、その後任選びも含め新政権にとっては大きな課題となりそうです。

経済政策以外ではロシアへの対応が注目されます。米バイデン政権はウクライナとの国境周辺に軍を集結させているロシアがウクライナに侵攻する場合、対ロシア制裁の一環として、ロシアとドイツを結ぶ「ノルドストリーム2(ガスパイプライン)」を稼働させないことをドイツに求める方針と報道されています。ノルドストリーム2の稼動は欧州天然ガス価格の大きな変動要因と見られますが、3党による連立政権では環境政党の緑の党はノルドストリーム2に懐疑的ですが、SPDはノルドストリーム2を擁護する姿勢です。連立内の対立が懸念されます。

なお、新政権の外相には中国やロシアへ厳しい発言を続ける緑の党のベーアボック共同党首が就任する運びです。ベーアボック共同党首は人権重視派の点で中国を批判しています。中国との経済関係を最優先して、人権問題への深入りを避けたメルケル氏の現実的(?)な路線からの離脱があるのか、ドイツ新政権の先行きに注目点は多そうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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