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ECBと英国中銀、それぞれのタカ派化
梅澤 利文
2021/12/17

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概要

英国中銀とECBの金融政策決定会合が重なるのはおよそ3年以上前ですが、両中銀の発表内容から判断して、政策の方向性は共にタカ派(金融引締めを選好)的となり、市場予想にやや反する結果となりました。もっともインフレ懸念が強い英国は利上げを決定した一方、ECBは今後の資産購入縮小(テーパリング)方針を明確化しただけとタカ派の程度に違いは見られます。



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ECB政策理事会:資産購入政策の方針を示し、タカ派を演出

欧州中央銀行(ECB)は2021年12月16日に開催した政策理事会で、コロナ禍で導入した緊急買い取り制度による資産購入(PEPP、新規)を22年3月末で打ち切ることを決定しました。具体的にはPEPPの資産購入は22年1-3月期に現行の600億ユーロから減額した上で、3月末に終了させるとしています(図表1参照)。同時に、購入額の急減で債券市場などが混乱しないように、激変緩和措置として、量的緩和制度(APP)による購入額を22年4-6月期については月400億ユーロに拡大し、7-9月期は月300億ユーロ、10月以降は月200億ユーロとすると共に、APPは必要な限り続け、利上げの手前で終了させる方針を発表しました。

同日、同じ欧州では英イングランド銀行(中央銀行)も金融政策決定会合を開催し、市場予想の据え置きに反し、政策金利を0.15%引き上げて年0.25%にすると発表しました。

どこに注目すべきか:ECB、PEPP、APP、英中銀、期待インフレ率

英国中銀とECBの金融政策決定会合が重なるのはおよそ3年以上前ですが、両中銀の発表内容から判断して、政策の方向性は共にタカ派(金融引締めを選好)的となり、市場予想にやや反する結果となりました。もっともインフレ懸念が強い英国は利上げを決定した一方、ECBは今後の資産購入縮小(テーパリング)方針を明確化しただけとタカ派の程度に違いは見られます。

まず、ECBの発表内容のポイントを振り返ります。欧州ではオミクロン株などコロナの感染拡大が懸念されています。ECBは今回(12月)の理事会でPEPPの今後の削減方針を明確化することが想定されていました。しかし、最近になってコロナの不透明感から一部ECB高官が方針を明確にすることは先送りする可能性を示唆していました。ECBは利上げはまだ先の話としても、PEPPの削減方針を明確化することはタカ派シフトのさきがけとも見られます。仮にPEPPの明確化を延期すれば、インフレ対応への迷いと市場は受け止めたと思われます。

しかし、ECBはPEPPを来年3月に終了させることに加え、図表1にあるようにAPPを一時期拡大してPEPP終了のショックを吸収した後、徐々に購入を減らす方針を示しました。テーパリング終了は22年10月以降いつになるのかは現段階ではわかりませんが、市場が予想するように、23年からの利上げにも対応可能な柔軟性が方針に見てとれます。

もっとも、タカ派に一歩シフトしたECBですが、PEPPの再投資期間は従来の23年末迄から、少なくとも24年まで延長し、巨大なバランスシートを維持する方針としています。大所帯のECBゆえ、利上げのコンセンサス形成には時間がかかるかもしれません。

次に、英中銀ですが、こちらは利上げを賛成8人、反対1人で決定しました。オミクロン株の動向が深刻な英国ですが、利上げの決め手はインフレ懸念です。英中銀のベイリー総裁は17日にテレビのインタビューでインフレについて、これまでのように一時的と表現せず、インフレ率は今後数ヵ月内に6%に達するとの懸念を述べています。英中銀については、市場は前回の会合で利上げを予想していましたが、英中銀は雇用市場を見守りたいとの判断から据え置きました。その後、英国でオミクロン株が拡大したことから市場は自然と据置を予想しました。しかし、英国の期待インフレ率ひとつとっても(図表2参照)、ユーロ圏との差は明らかです。英国は一足先に利上げによるインフレ対応を継続すると見られます。、


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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