Article Title
インドネシア、金融政策の正常化を示唆か
梅澤 利文
2022/01/24

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドネシア中銀は米国の金融引締めを見越す格好で金融政策の正常化に布石を打ちました。預金準備率の引き上げに伴い、年内にも政策金利を引き上げる可能性が浮上してきました。アジアの中央銀行で韓国の次に利上げをするのはインドか台湾と思っていましたが、インドネシアも先頭グループに仲間入りした可能性があります。



Article Body Text

インドネシア中銀:預金準備率の引き上げ発表で正常化の布石か

インドネシア銀行(中央銀行)は2022年1月19-20日に金融政策決定会合を開催し、政策金利である7日物リバースレポ金利を市場予想通り過去最低の3.5%で据え置く事を決定しました(図表1参照)。

一方で、インドネシア中銀は市中銀行の預金準備率について22年3月から現在の3.5%から5.0%に引き上げ、その後も同年6月に6.0%、9月に6.5%とする方針を表明しました(イスラム金融の引き上げ幅は異なる)。米国の3月利上げが見込まれる中、インドネシア中銀が正常化に向けた布石を打ったものと見られます。

どこに注目すべきか:預金準備率、ルピア、経常収支、政策金利

まず、インドネシア中銀の金融政策運営の特色を簡単に振り返ると、通貨安抑制を重視する姿勢がうかがえます(図表1参照)。インドネシアの外貨建(主にドル建)債務の対GDP(国内総生産)比率が比較的高いことから、ルピア安が債務負担の増加につながる懸念があります。またルピア安はインフレの上昇を引き起こしやすい傾向があることから、金融当局が神経質になるのはもっともと思われます。

なお、20年3月頃に新型コロナウイルスによる景気への深刻な懸念を背景にルピアに限らず新興国通貨が急落した局面では、米連邦準備制度理事会(FRB)が新興国などにドル供給をしたこともあり、金融緩和姿勢を維持しました。

次にインドネシアの経済動向を見ると、経常収支対GDP比率は21年7-9月期に0.2%上昇とプラス転換しました(図表2参照)。22年の経常収支対GDP比率の見通しもマイナス1.9%~マイナス1.1%に留まると声明文で述べています。インドネシアというと経常赤字国というイメージがありますが、足元の環境に若干改善が見られます。経常収支の改善は為替レートの下支え要因になったと思われます。

その結果、インフレ率も比較的落ち着いて推移しており、21年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.9%となっています。もっとも、昨年のインフレ率が低水準に留まった背景としてインドネシア中銀は為替レートの安定などの要因がある一方でコロナ禍により国内需要が軟調であったことなどをあげています。インドネシア中銀は22年のインフレ率もインフレ目標である3%±1%に収まる見込みであると声明で指摘しています。ただ、昨年インフレを抑制していた要因のいくらかは、コロナ禍からの経済再開に伴い消失することも考えられます。

経済成長について、インドネシア中銀は21年の成長率を3.2%~4.0%増、今年は市場予想とほぼ同程度の4.7%~5.5%増を見込んでいます。

インドネシア経済は数字の上では落ち着いているようにも見えます。しかしながら、インドネシア中銀は米国の利上げが今年3月に開始され、年4回程度引き上げられると見込んでいる模様です。従来年内1回程度の利上げを想定していたことから通貨安抑制とインフレ率の安定的な推移に重点を置く政策へのシフトが求められます。

なお、インドネシア中銀はコロナ禍を受け、政府の財政支援を目的に通常はタブーとされる国債購入政策を続け、ある種の金融緩和を行っています。政策の透明性などから、これまで市場は問題視しなかった経緯がありますが、出口戦略を明確にする時期が近づいているように思われます。インドネシア中銀は据置を続ける政策金利と、財政政策への協力について、見直しの時期を迎えつつあるように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議