Article Title
ウクライナ問題に再び市場が注目
梅澤 利文
2022/01/25

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を編入したのは2014年のことです。そして現在、ロシアはウクライナ国境付近に10万人規模の部隊を展開していることなどが報道されています。これに対し米国は、ロシアが侵攻すれば、前例のない規模の制裁で報復すると言明するなど緊張が高まっています。市場では天然ガス価格が上昇するなど警戒感が高まっています。



Article Body Text

ウクライナ問題:緊張が高まる中、欧米首脳が外交努力を継続

バイデン米大統領は2022年1月24日に欧州の首脳とオンラインでの緊急協議を開催、緊迫するウクライナ情勢をめぐり議論しました。協議では、対話を通じたロシアとの緊張緩和をめざすべきとの認識で一致したと報道されています。

これに先立ち、ブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相は21日、緊迫するウクライナ情勢を巡ってスイス・ジュネーブで会談しました。ロシアが21年12月に提案した欧州安全保障の合意案について、米国は今週回答する方針です。回答を待って再会談する必要があるとの考えでも両国は一致していると伝えられています。

どこに注目すべきか:ウクライナ、東方拡大、NATO、ベラルーシ

欧米各国の首脳らによる24日の協議にはバイデン米大統領、マクロン仏大統領、ショルツ独首相など6ヵ国の首脳に加え、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)のトップらも参加しました。

参加メンバーから、ウクライナ問題の緊張度合いが伝わります。しかしそもそも何故ロシアとウクライナで緊張が高まるのか?その答えはロシアのプーチン大統領にお聞きするしかありません。ただ、次の点は押さえる必要があるでしょう。

まずロシアの地理的な問題です。ロシア国境の西側を黒海の上(北側)についてみると、ベラルーシと、ウクライナがロシアに接しています。その西側(地図では左)はEUの国々が迫っています。具体的にはバルト3国(エストニア、ラトビアリトアニア)、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニアが並んでいます。ロシアから見ると西側にはEUの国々が壁のように見えるかもしれません。

次にこれを軍事的な側面から見ると、EUの国々を中心にNATOによる集団防衛体制が築かれています。NATOの設立から現在までの流れを振り返ると、東欧などの国々を加盟させることにより拡大してきています(図表1参照)。49年の設立当初、NATOの原加盟国はベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、英国、米国の12ヵ国でした。これが現在では30ヵ国となっています。

一方、ソ連(当時)や東欧7ヵ国により構成されたワルシャワ条約機構は東西冷戦の終結でその歴史的な役割を終えました。ソ連崩壊後主な独立国によりCIS(独立国家共同体)が作られましたが、ほぼ機能せず、CIS加盟国であったウクライナは2014年に脱退しています。

こうした流れの中で、ウクライナのゼレンスキー政権は親欧米姿勢です。ウクライナは現段階ではEU並びにNATOに加盟していません。しかしバルト3国のようにウクライナがNATOの一員になれば、ロシアとEUの国境の主な国は、欧米から経済制裁を受け結びついているベラルーシなどに限られます。

なお、ベラルーシにはロシア軍の増援部隊が到着しているという情報が先週あたりから聞かれ18日にはこの情報を米国務省幹部が認めるなど緊張が高まっています。

こうした緊張関係の中で行われた、ブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相の会談は21年12月に提案した欧州安全保障の合意案をベースに協議された模様ですが、合意案の柱はNATOの東方拡大の停止と見込まれています。今のところ、米国はこれを受け入れない意向との憶測もありますが、今後を占う上で、今は米国からの回答待ちです。

なお、欧米側で気になるのは結束です。地理的に欧州の問題ながら米国が前面に出ているのはNATOの原加盟国ということですが、エネルギーをロシアに依存する欧州には、どこかロシアに対する遠慮があるようにも見受けられます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが