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ウクライナ問題のアップデート
梅澤 利文
2022/01/28

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概要

米バイデン政権はロシアが2021年12月に提案した欧州の安保構想について回答しました。回答は報道内容などから判断してロシアの要求を満たすものではないと見られます。ただ、ロシアと米国は交渉を続ける意向と見られます。外交問題ゆえ、今後の展開を想定することは困難ながら、とりあえず市場には安堵感も見られました。



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ウクライナ問題:米国の回答にロシアは不満足ながら、交渉継続の様子

ブリンケン米国務長官は2022年1月26日の記者会見で、緊迫するウクライナ情勢に関するロシアの提案に文書で回答したことを表明しました。ブリンケン国務長官によると、ロシアが求める北大西洋条約機構(NATO)不拡大の確約を正式に拒否したと明らかにしました。ただ、対話は継続される公算が大きいことも示唆しました。

一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は27日、プーチン大統領は提案文書にすでに目を通し、その分析に時間を取るだろうと記者団に発言した上でロシアの見方が考慮された、あるいはロシアの懸念を考慮する用意が示されたとは言えないとの考えを述べました。しかしながら、次の日に反応があると期待するのは分別がないというものだとし、米国との事務レベルの接触は続けると報道されています。

どこに注目すべきか:ウクライナ、NATO、東方拡大、インフレ動向

米国の回答を受けたロシアの反応などを背景に、市場ではルーブル高など交渉継続に安堵する動きが見られました(図表1参照)。問題解決には程遠い段階ながらルーブル高が見られたのは、この問題に市場が神経質なことの現われと見られます。

ロシアの立場から要求内容を振り返ると主に次の4点が注目されます。

①ウクライナが法的にNATO非加盟を確約すること

②NATOに97年以降加盟した東欧などの国に対してNATOが武器を供与することを禁止

③欧州における中距離ミサイルの配置禁止と1987年に米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長(共に当時)で調印された中距離核戦力(INF)廃棄条約(ただしトランプ政権が破棄)の復活

④2015年2月のミンスク合意の実施に係る包括的措置(ウクライナ軍とロシアが支援する分離主義武装勢力との間の停戦合意)の拡充

などとなっています。特にウクライナをロシアの防衛上重要な戦略拠点と考えるプーチン大統領にとって①は重要と思われます。

もっとも、米国やNATOの立場からは、NATOは来るものは拒まずの方針で拡大を維持しただけに法的な拡大の抑制には同意しかねる姿勢です。ブリンケン国務長官もこの点は(これまでのところ)否定しているようです。

今後の展開を占ううえで、ロシアの経済状況を確認すると、ロシア国内事情は厳しさを増しています。ロシアの消費者物価指数(CPI)は21年12月が前年同月比で8.4%と高インフレに苦しんでいます(図表2参照) 。ルーブル安もある中、生産者物価指数(PPI)は30%前後で推移しています。価格転嫁できない分は企業の収益を悪化させる懸念があります。ロシア中央銀行は21年3月から政策金利を合計4.25%引き上げ現在8.5%としています。インフレ動向に落ち着きが見られないことから、ロシア中銀の次回の会合(2月11日予定)では、さらなる利上げも想定されています。そのため個人消費は伸び悩み、さらに足元では新型コロナウイルスの感染再拡大も見られます。国内事情がこれだけ悪化しているうえにロシアにとって事態が長期化することは不利に働くと思われます。

ロシアは欧州へ天然ガスを供給するほか、有数の産油国であり、エネルギー価格への影響力は大きいことからウクライナ問題の動向は市場に注目されています。今後の展開を占うのは困難ながら、時間はロシアに味方しないかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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