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- 5月の米CPI、関税の影響の「まだ」と「これから」
5月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.4%上昇と小幅な伸びにとどまるなど全般に鈍化傾向で、トランプ政権の関税政策の影響は限定的と見える。エネルギー価格やサービス価格の鈍化が要因であり、一部の品目で関税の影響が見られたものの、輸入在庫の活用などで物価を抑制する動きも見られ全体の物価上昇は抑えられた。ただし、企業の価格設定行動の今後についての注視が肝要だ。
5月の米CPI、概ねインフレ鈍化を示唆する一方で、関税の影響は不明確
米労働省が6月11日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.4%と、市場予想通りで、前月の2.3%上昇を小幅ながら上回った(図表1参照)。一方で、物価の瞬間風速を映す前月比で0.1%上昇と、市場予想の0.3%上昇、前月の0.2%上昇を下回って鈍化した。足元の物価上昇圧力が弱いことから、トランプ米政権の高関税政策の影響は明確には示されなかった。
エネルギーと食品を除くコア指数では2.8%上昇と、市場予想の2.9%を下回った。4月は2.8%上昇だった。前月比は0.1%の上昇にとどまった。自動車や衣料品など関税の影響を受けたとみられていた品目が予想に反し下落した。
5月の米CPIは前月比の伸びが0.1%にとどまった
前年同月比の伸びが2.4%となった5月の米CPIに物価上昇圧力は見られない。一部の品目には関税の影響と思われる価格の上昇も見受けられたが、全体を押し上げるには至らなかった。
トランプ関税の影響で、米国の貿易加重実効関税率は、昨年の2.5%から、足元では15%弱と試算している。歴史的な関税率の引き上げによる物価押し上げが懸念されるが主に3つの理由で5月のCPIの上昇は抑制されたと見ている。
最初の理由は関税の影響が出やすい財価格の落ち着きだ。総合CPIの前月比の伸び(5月は0.1%上昇)を、エネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分けて寄与度をみると(図表2参照)、財価格の寄与がほぼみられない。5月の財価格は前月比でほぼ横ばい(-0.04%)だったことがこの背景だ。しかし、個別品目をみると、中国からの輸入が多い玩具や(前月比1.3%上昇)や洗濯機(2.3%)など4月の伸びを大幅に上回る品目も見られた。なお、関税の影響は少ないだろうが、処方箋医薬品なども5月は上昇した。
一方で、輸入が多いとみられる衣料品(-0.4%)や、関税前の駆け込み購入が目立った自動車は新車が-0.3%、中古車が-0.5%と共にマイナス圏だった。輸入拡大の動きは米国の貿易収支統計に示されており、3月は駆け込み購入で輸入が急拡大した。しかし4月の輸入は急減した。衣料品などは輸入在庫で値段を抑えているとみられるが、その持続性に疑問が残る。中古車は5月のCPIでは販売価格を反映して下落した。しかし、販売価格に先行する傾向がある中古自動車の卸価格は足元上昇の兆しが見られることにも注意は必要だ。
5月のCPIが伸び悩んだ2番目の理由は、ガソリンなどエネルギー価格(前月比1.0%下落)が、4月の0.7%上昇からマイナスに転じたためだ。
3番目の理由はサービス(除くエネルギーサービス)が前月比0.2%上昇と4月の0.3%上昇から鈍化したためだ(図表3参照)。
サービスのうち、関税の影響を受けにくい分野である賃料や帰属家賃(持ち家に賃料を払うとして算出、図表3に表示)は、賃料が前月比0.2%上昇、帰属家賃は0.3%上昇と落ち着いた水準だった。米連邦準備制度理事会(FRB) がインフレ鎮静化に苦しんでいた時期に、賃料や帰属家賃は価格が下がらなかったが、足元では落ち着いた水準となっている。理髪サービスなど賃金により価格が左右されすいサービスの分野では、まちまちの動きとなっている。
一方、サービスの中でも個人消費を通じて関税の間接的な影響が出やすい分野、具体的には航空運賃や宿泊費は前月比で下落した。関税の影響は消費者マインドを悪化させたが、消費者が支出を抑制した結果、航空運賃のように価格が伸び悩む品目もあったようだ。
関税の物価に対する影響を判断するには様々な要因を考慮する必要
関税は(米国の)物価を押し上げると一般に言われ、筆者も概ねその通りとは思う。ただし、どの商品が、どの程度、いつから物価が上がるかは定かでない。前倒しの輸入で物価を抑えるなど、企業は様々な価格設定行動をとっており、これが物価を左右すると見られる。
最近ニューヨーク連銀が発表した調査では関税の反映度合いや時期について企業に聞き取りを行っている。価格転嫁(関税によるコスト上昇)について、製造業の3分の1、サービス業の45%程度がコスト上昇分をフルに価格に上乗せするとしている。しかし、価格転嫁を一部にとどめるとする企業も多く、製造業やサービス業はともに2割強が価格転嫁を見合わせる考えのようだ。
同調査で、価格転嫁の時期を尋ねたところ、即座にという回答はサービス業が4分の1程度、製造業は15%程度で、3ヵ月程度見送るケースも少なからずあるようだ。調査はニューヨーク州周辺に限られ、全米では状況が異なるかもしれないが、関税の物価への影響を見定めるにあたり、5月のCPIだけで結論付けるのは早すぎると思われる。
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