- Article Title
- 米雇用統計、底堅さの背後に弱さも見え隠れ
米労働省が発表した5月の雇用統計では、非農業部門の就業者数が市場予想を上回り、失業率は4.2%で安定していた。平均時給も前年同月比3.9%増と堅調だった。しかし、就業者数の伸びを部門別に見ると雇用の伸びに偏りがあるなど弱さも見られた。また、失業率も数字は安定しているが、労働参加率の低下など質の悪化が懸念される。5月の雇用統計は底堅い数字の一方で弱さも見られた。
5月の米雇用統計で非農業部門の就業者数の伸びは市場予想を上回った
米労働省が6月6日に発表した5月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比13.9万人増と、市場予想の12.6万人増を上回った(図表1参照)。3月の伸びは速報値の18.5万人増が12万人増に、4月の17.7万人増が14.7万人増にそれぞれ下方修正された。
失業率は4.2%と、市場予想、4月(共に4.2%)と同水準だった。2024年後半から4.0〜4.2%の間で小幅な動きにとどまっている。平均時給は前月比で0.4%増と、市場予想の0.3%増、4月の0.2%増を上回った。前年同月比では3.9%増と、市場予想の3.7%増を上回った。4月は3.9%増と、速報値の3.8%増から上方修正された。
5月の米雇用統計は底堅さを示したが、内容には弱い面も含まれる
5月の米雇用統計を受け労働市場は底堅いとの見方から、米株式市場は上昇し、米国債市場では10年国債利回りが4.5%を回復した。非農業部門の就業者数、失業率、平均時給の伸びいずれも5月の数字は底堅かった。
ただし、市場の反応の背景には、「5月の雇用統計は(他が悪かったので)悪いかもしれない」という懸念があったにもかかわらず、出てきた数字が底堅かった分、余計に反発した面もあると思われる。底堅さの背後にある注意点を以下に検討する。
まずは非農業部門の就業者数であるが、3月、4月は合計で9.5万人下方修正されている。しかし、3ヵ月平均は13.5万人で伸びは底堅い。注目すべきは部門別の伸びだ(図表2参照)。5月に雇用が伸びた部門は「娯楽・宿泊」と「教育・医療」などに限られ、幅広い雇用の復活とは言い難い。トランプ政権が復活を期待する「製造業」は、成果が出るのはこれからなのかもしれないが、5月は前月比でマイナスと軟調だ。採用の先行指標となる傾向がある「人材派遣」も前月比でマイナスだ。
一方、「娯楽・宿泊」は5月の伸びが堅調だった。米中双方が追加関税を引き下げるなど緊張緩和が雇用を伸ばしたのかもしれない。大手求人検索サイトによる求人件数指数は5月にやや改善が見られた。ただし、今後も求人が持続的に回復(筆者は否定的)するかには注意が必要だろう。
「教育・医療」の構成は8割近くがヘルスケア関連である。高齢化が進む中、人手に依存する分野も多く採用活動は途切れにくい。「教育・医療」の雇用動向は景気に左右されにくい面もあるようだ。
次に5月の失業率は、米金融当局の長期予想と一致する4.2%で、悪くない水準だ。ただし、小数点以下第2位(第3位四捨五入)で見ると5月は4.24%で、4月の4.19%から上昇しているうえ、5月の失業率はほぼ4.3%であった点に注意したい。
また、労働参加率(図表3参照)が62.4%と前月を下回ったことにも注意したい。労働参加率の低下は失業者が雇用環境の仕事探しを諦めた場合に低下する可能性があるからだ。その場合の失業率は見かけよりも「質」が悪いことも考えられる。
5月の平均時給は前年同月比3.9%増と、消費の下支えが期待される水準
5月の平均時給は前年同月比で5ヵ月連続して3.9%増と高止まりした。前月比は0.4%増で前月の0.2%増を上回った。したがって、インフレ鈍化に伴い実質賃金は大幅なプラス圏での推移(足元では加速傾向)となっている。この点は消費を押し上げる要因となることが期待される。米国の個人消費は1-3月期のGDP(国内総生産)統計で前期比年率は1.2%と減速した。不確実性などいくつかの要因が消費を抑制したと見ている。しかし、そうであっても賃金は依然消費を下支えしそうだ。
ただし、5月の前月比の伸びを部門別にみると(図表4参照)、持続性に若干疑問も残る。部門を大別すると製造業や建設業などを含む「財生産」と、小売りなどを含む「サービス」部門に分けられる。両部門とも5月の平均時給の伸びは前月比0.4%増だった。しかし、4月は財生産が0.0%、サービスが0.2%と低水準だった。テクニカルな話だが、5月はその反動で伸びた可能性もあろう。
持続性について、より注目したいのは企業の価格設定行動だ。今後、関税によるコスト上昇が想定されるが、企業は賃金を十分に確保するのかについて、注視を続ける必要があろう。
5月の雇用統計と同じ週に発表された他の労働市場関連データがよくなかった分、回復感が先立ったが、雇用統計にも不安な点はあるようだ。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。