- Article Title
- 南アへのトランプ政権の姿勢が金融政策に影響か
南アフリカ準備銀行は政策金利を7.50%から7.25%に引き下げた。背景には経済成長率悪化やインフレ率鈍化見通し、通貨ランドの回復がある。南アは治安の悪化、電力不足、失業率などの構造問題を抱えているうえに、相互関税や土地収用問題などでトランプ政権から圧力も受けている。対立の火種を抱える南アの連立政権の政策運営は今後の金融市場や金融政策の動向に影響を与えるかもしれない。
南ア中銀、経済成長率見通し引き下げ、通貨高などを背景に利下げ再開
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は5月29日に金融政策決定会合(会合)の結果を発表し、市場予想通り、政策金利を7.50%から7.25%に引き下げることとした(図表1参照)。前回の3月会合では据え置いたが、再び利下げを決定した。利下げの背景として、経済成長率やインフレ率の見通しの引き下げが挙げられ、25年の経済成長率を前回の1.7%から1.2%へ引き下げた。景気下振れ見通しが強まる中、今回の会合では5人が0.25%の利下げを支持した一方で、1人は0.5%の大幅利下げを主張し意見が分かれた。
なお、利下げ支持の背景には、通貨ランドの回復も挙げられている。トランプ関税発表などを受け急落したランドは足元で回復基調となっている。
利下げを後押ししたランド高だが、国内外に問題の芽は残る
南アは治安の悪化、電力供給不足、30%を上回る失業率など構造的問題に解決の糸口は見えない。その上、最近ではトランプ政権からの圧力と、連立政権による国内政治への不安もあり、内憂外患に陥っていた。しかし、足元で通貨ランドは堅調さを取り戻しているようにも見え、南ア中銀が利下げを後押しする要因の1つとなった。南アランドの変動要因を振り返ろう。
最初の変動要因はトランプ関税だ。図表1にあるように、ランドは4月9日を境に上昇に転じている。背景は同日、トランプ米大統領が相互関税のうち国・地域ごとに設定した上乗せ部分を90日間停止すると発表したためだ。停止の発表はランドに限らず、多くの新興国通貨の押し上げ要因となった。4月2日に相互関税発表時点の南アの関税税率は30%(上乗せ分が20%)と比較的厳しい内容だったことで直後にランドが急落した分、上乗せ部分停止の発表は大きなランド高要因となった。
関税以外にも、南アはトランプ政権から圧力を受けている。象徴的なのは5月21日のトランプ大統領と南アのラマポーザ大統領の会談だろう。トランプ大統領は第1次政権の時から南ア政府が少数派の白人の土地を不当に収用し、白人への迫害を黙認していると主張してきた。第2次政権では南ア出身のイーロン・マスク氏もトランプ大統領に同調していた。ラマポーザ大統領はホワイトハウスでの首脳会談に臨み、誤解を正すべく説得を試みた。しかし、トランプ大統領は報道陣の前で、南アでは白人は土地を没収され、多くの場合、彼らは殺されていると主張するとともに、証拠として動画や写真を示した。
ラマポーザ大統領の対応は、当然ながら戸惑った面もあったが、逆にトランプ大統領に出所を確認するなど冷静に対応した。また、南アの白人農民が虐殺された墓の映像などトランプ大統領が示した「証拠」は、別の国で撮影された全く無関係なものだったことが後に報道された。この問題について当面は南アへ圧力をかけにくいかもしれない。
ただし、トランプ政権が問題視する南アの土地収用問題には解決の道筋が未だに見えない。トランプ大統領が2月に南アへの資金援助を停止することを示唆した背景には土地収用問題が関係している。南アではアパルトヘイト(人種隔離)政策により、白人の土地利用のため、黒人などの土地が収用された。反アパルトヘイトの立場である与党のアフリカ民族会議(ANC)は土地を黒人に戻す政策を主導している。しかし、十分な補償もなく白人中心の(現在の)地主から土地を奪うことには問題も多い。今年1月に南ア政府が公益のために土地を収用しやすくする新法を成立させたが、トランプ大統領は反対の立場だ。南アと米国大統領との間の首脳会談では、トランプ大統領が誤った証拠を示したことによる敵失で、短期的にはランド下押しは回避できるかもしれない。しかし、南アの土地収用問題そのものの解消は依然道半ばだ。
南アのANCは経済支援停止分を埋め合わせる増税を見送った
次に、国内政治に目を向けると、連立政権への懸念とその後退がランドの変動要因と見られる。
南アは24年5月に行われた総選挙で、長年政権を維持してきた与党ANCが過半数割れとなり、連立政権(国民統一政府(GNU)、ANCを含めた複数政党で構成)を発足させた。ただし、主要な連立相手である民主同盟(DA)は親ビジネス的で白人支持が多く不安を抱えての発足だった。
不安が現実となったのは付加価値税(VAT)引き上げの見送りだ。ANCは25/26年度予算(25年4月~26年3月)でVATの引き上げを提案したがDAの反対により結局取り下げとなった。ANCが増税を提案した背景は、慢性的な財政不安への対応と共に、トランプ政権が示唆した経済支援停止の穴埋めが念頭にあったようだ。一方で白人の支持層を持つDAはANC主導の土地政策には反対の立場であること、親ビジネス政党であることから増税は受け入れがたかったようだ。
紆余曲折はあったが、4月後半にANCが増税見送りを発表したことで、連立解消といった政治不安は後退した。ランドへの影響は複雑だが、政治不安の後退という点では安心材料だろう。
なお、増税見送りは今回、南ア中銀が利下げを支持する1つの要因となった。南アの消費者物価指数(CPI)を見ると(図表2参照)、インフレは鈍化傾向で、これが利下げの主要な要因だ。加えて、5月の声明で南ア中銀は25年のCPI予想を前回の3.6%から3.2%へ引き下げた。南ア中銀は前回予想は増税による物価押上げ分を考慮していたため、この分を引き下げたと説明している。増税見送りは意外な効果があったわけだが、ランドへの影響となると複雑な要因と見られそうだ。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。