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- トランプ減税の「1つの大きく美しい法案」に残る不安
米議会予算局(CBO)は、2034年までの10年間で減税延長法案が財政赤字を2.4兆ドル増加させると試算。一方、トランプ政権の関税政策により、赤字が2.8兆ドル縮小する可能性も示した。市場では減税延長法案の可決を受けて財政不安が高まったが、関税収入や財政赤字の規模から懸念がやや後退した。ただし、関税収入は不確実で財政不安は解消されておらず、今後の動向には注意が必要だ。
議会予算局はトランプ減税で基本シナリオより2.4兆ドル赤字拡大と試算
米国の独立財政機関、米議会予算局(CBO)は6月4日に米連邦議会下院が5月22日に可決した減税延長法案(1つの大きく美しい法案)の財政影響について新たな試算を公表した。CBOによると2034年までの10年間で財政赤字がメインシナリオに比べて計2.4兆ドル(約340兆円)押し上げると見積もっている(図表1参照)。
また、CBOは同日、5月半ば時点で発効したトランプ関税政策により、米財政赤字は推計2.8兆ドル縮小するとの見通しを書簡で示した。同書簡は、これほどの関税引き上げは過去に例がないことから、(関税による)財政赤字の縮小見込みは大きな不確実性があると指摘している。
1つの美しい法案による赤字拡大規模をめぐり市場は右往左往
米議会下院は5月22日にトランプ米政権の1期目に導入した減税策の延長を含む「1つの大きく美しい法案」を可決した(図表2参照)。この法案は上院に送られた。法案に関連するこれまでの動きと今後のポイントを振り返りながら、市場や経済への影響を確認する。
トランプ大統領が17年に導入した減税は25年末が期限となる。選挙期間中、トランプ氏は期限の延長を公約としてきた。この減税に政府債務の法廷上限を引き上げることも含めた減税延長法案は4月10日に予算決議が可決されたことで法案成立に向けた具体的なプロセスが動き出した。
減税には議会(上下両院)承認が求められる。議会での承認の妨害(議事進行を遅らせる、フィリバスター)を防ぐためには予算決議が必要だ。共和党は議会で過半数を確保しているが、上院でフィリバスターを止める議席数はないため、財政調整措置の活用を選択したと見られる。各財政年度に一度しか使えないが、財政調整措置により、過半数で法案を可決させる道が開けた。
市場では財政不安が話題となる。米国債市場で長期金利の利回りが急上昇した背景と考えられるからだ。いつ頃から不安が高まったのかを利回りや、財政不安を反映するといわれるタームプレミアムから判断すると、4月前半から不安が高まったように見える。予算決議では減税規模が5.3兆ドル庁ドルとされたことなどが嫌気された。不安のピークは5月後半だった。図表2に戻ると減税延長法案が下院で可決した時期に相当する。
4月2日には相互関税発表の大混乱があり、そのことが市場の不安を高めたという可能性がある一方で、トランプ減税には予算決議という動きがあったことも背景だろう。トランプ大統領が減税を延長する意向であったのは確かだが、期間を定めた延長なのか、恒久的なものになるのか当初あいまいな時もあったが、このころには恒久減税で推し進めることは明確で、その分財政負担の拡大が懸念された。また、予算決議が可決されたことにより議会運営上、恒久減税への道が開けたともいえよう。
財政赤字拡大分は関税での埋め合わせる可能性はあるが不確実性が高い
「1つの大きく美しい法案」と名付けられた減税延長法案が下院から5月12日に発表された。16日の米国の格下げに法案内容が影響した可能性はゼロではないようだ。
減税延長法案は22日に可決し、上院に送付された。市場の不安が高まったのもこのころだが、足元では,懸念が後退したわけではないものの、落ち着きを取り戻してきたようにも見える。この背景として財政赤字拡大規模の見通し改善と、関税収入への期待が考えられる。
財政赤字の規模(累積額)は議会予算局の試算を参考にすると、25年度から34年度までの10年間の財政赤字の規模は約2.4兆ドルと見込まれている。予算決議前には10年間の財政赤字の規模の予想は幅広かった。下院が22日に法案を可決する前後、財政赤字規模の市場予想も議会予算局の数字に近く、「これぐらいなら」という認識に変化してきた可能性がある。
次に、関税収入が基本シナリオの赤字拡大分部分を上回って埋め合わせるとの期待も高まっている。今回、議会予算局は11年間(35年度まで)関税が財政赤字を2.8兆ドル減らすとの試算を示した。試算の前提を見ると、ほぼ世界一律10%の関税や、自動車・部品への25%など5月13日までに適用された関税を反映している。議会予算局にも研究機関などが関税による赤字削減効果を試算しているが、概ね2兆ドル規模が見込まれている。
ただし、財政不安は落ち着いたといっても解消したわけではなく、関税で相殺しても、減税延長法案前から悪化が懸念されていた米国財政(ベースラインの財政赤字対GDP比率は10年平均で5.9%)に戻るだけだ。関税はさらなる赤字拡大の埋め合わせに過ぎない。そのうえ、関税収入がいつまで続くのか不確実性は高い。将来の問題として、民主党政権となった場合に関税政策は不変なのだろうか?安心するのは時期尚早と思われる。
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