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最近のレアル高の主な背景と今後の展開
梅澤 利文
2022/02/03

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概要

ブラジルの通貨レアルは昨年後半から軟調に推移していましたが、今年に入りレアル高傾向に転じています。レアル上昇の背景は財政悪化懸念が一旦後退したことと、ブラジルの高金利に資金流入が見られた点があげられます。今後の展開を占うと、高金利政策はしばらく維持される一方、年後半に控える大統領選挙が今後のレアルの動向を左右する可能性があります。



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ブラジル中央銀行:市場予想通り政策金利を1.5%引き上げ10.75%へ

ブラジル中央銀行は2022年2月2日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通り政策金利を9.25%から1.5%引き上げて10.75%にすることを決めました(図表1参照)。昨年3月以降の利上げは8回会合連続で、合計の利上げ幅はこれで8.75%となりました。

ブラジル中銀は景気が厳しい状況にある中、干ばつや経済再開に伴うインフレの加速を受け、金融引き締めを優先してきました。しかし今回ブラジル中銀は声明で「利上げペースを落とすことが適切と予想する」と述べています。

どこに注目すべきか:財政政策、予算案、公務員給与、利上げ

まずレアルの動向を簡単に振り返ります。昨年後半はレアル安が進行しました(図表1参照)。レアル安の背景として、ブラジル政府の新型コロナ対策への不信感、財政悪化懸念、水不足による穀物価格や電力料金の上昇によるインフレ率の上昇(図表2参照)などがあげられます。

特に、財政悪化懸念は22年度予算案の議論などを通して注目されました。支持率低迷に苦しむボルソナロ大統領は、財政拡大で人気回復を目論んでいましたが、議会は財政規律の維持を盾に攻防を続けました。ブラジルの大統領選挙は今年10月予定ですが、早くも選挙の争点が浮上した印象です。

22年度予算は22年1月24日にボルソナロ大統領が署名したことで法案化されました。内容を簡単に述べると、ボルソナロ大統領の提案は縮小され、一応財政の無節操な拡大は阻止されたと見られます。例えば、ボルソナロ大統領がこだわっていた公務員の待遇改善はかないませんでした。公務員の給与増加に割り当てられた予算は17億レアルで、ボルソナロ大統領が求めていた29億レアルの半分程度でした。思い描いていた公務員の賃上げは実現困難と見られます。

もっとも、柔軟に政策を生み出すボルソナロ大統領ゆえ、奇抜なアイデアを持ち出してくるかもしれません。ただ、22年予算全体をプライマリーバランス(政策的経費を税収でまかなう程度を示す)で見ると、22年度のプライマリーバランス(赤字)対GDP(国内総生産)比率は0.8%程度と見られ、政府が当初想定していた同比率1.8%の赤字からの縮小が見込まれます。ブラジルの財政赤字の拡大は昨年後半に懸念されていたよりは、今のところ落ち着いた印象です。

財政懸念が若干後退したこともあり、ブラジルの高金利がレアル高をサポートした可能性があります。また利上げにより政策金利はインフレ率を上回る水準と見られる上、ブラジルのインフレ率を、短期的な変動がより反映しやすい前月比ベースで見ると足元は低下傾向となっています(図表2参照)。

さらに、ブラジル中銀が推定する中立金利(実質政策金利の目安)は3%半ば程度と見ています。ブラジルの短期実質金利をスワップレートと期待インフレ率から算出すると中立金利を上回る水準と思われ、現在は「引締め水準」になっていると見られます。昨年の利上げ開始時は「緩和水準」であったことに比べ、金利面でレアルのサポートは期待されそうです。

なお、ブラジル中銀は利上げペースを今後落とす模様です。引き下げではなく、あくまで利上げの程度を抑えるに過ぎないのですが、影響力の強い米国が利上げを始める段階で手綱を緩める方向に向かうだけに、インフレ率が足元低下傾向とはいえ、市場の反応に注意は必要です。

もっとも、これまで述べてきた背景などで年初から足元まではレアル高ですが、大統領選挙を前に政治動向の予測は困難で、今後レアルの動向が不安定となることも想定されます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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