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強い、米雇用統計と若干の注意点
梅澤 利文
2022/02/07

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概要

1月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が市場予想を上回り、さらに過去分も大幅に上方修正されました。賃金の伸びも市場の予想を大幅に上回りインフレ懸念の深刻さが示されました。米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策をタカ派(金融引締めを選好)化シフトを想定させる結果ですが、どの程度変更するかについては内容の確認が必要と思われます。



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米雇用統計:非農業部門の就業者数や平均時給は市場予想を大幅に上回る

米労働省が2022年2月4日に発表した1月の雇用統計で非農業部門の就業者数は前月比46.7万人増と、市場予想の12.5万人増を上回りました。前月は51.0万人増と、速報値の19.9万人から上方修正されました。12月と11月両月合わせて70.9万人の上方修正となりました。

家計調査に基づく失業率は4.0%と、市場予想の3.9%、前月の3.9%を上回りました。

平均時給は前月比0.7%増、前年同月比では5.7%増で、いずれも市場予想を上回る伸びとなりました(図表1参照)。

どこに注目すべきか:速報値、人口推計、労働参加率、平均時給

まず今回の米雇用統計で労働市場の力強い回復が示された主なデータを振り返ります。

最初にあげられるのは非農業部門の就業者数です。就業者数の伸びを部門別に見ると(図表2参照)、幅広い部門において雇用の回復が見られます。オミクロン株の感染拡大で大幅な減少が想定された娯楽・接客部門でも前月比でプラスを確保するなど想定以上の力強さが見られます。

図表2の棒グラフでは3本のうち左端が12月の速報値を示しています。真ん中の12月確報値と比較して概ねどの部門も上方修正されています。過去の就業者数が今回大幅に上方修正された背景には、コロナ禍におけるデータ調整の難しさが想定されます。これまで目にしてきた就業者数のデータが低すぎたと認識を改める必要がありそうです。

賃金も市場予想を超える伸びを示しました。米国の賃金の伸びは上昇傾向でインフレへの影響が懸念されます。

失業率は小幅上昇しましたが、労働参加率が62.2%と前月の61.9%から上昇しており、通常であれば労働意欲のある(失業者)が回帰しているサインであることから、質の良い失業者率の上昇ともいえそうです。

これまでの「低い」印象であった就業者数データがようやく上方修正された点などから、労働市場の強さが示されましたが、次の点には確認も必要です。

今回の雇用統計では最新の人口推計を反映しているため前月(21年12月)と今回のデータの比較には注意が必要な点です。例えば、労働参加率は新基準ベースで1月は62.2%となりましたが旧基準での1月分は61.9%と、前月と変わらないと労働省は説明しています。新たな人口推計では労働参加率の高い世代の人口が増えたことなどがその背景であり、解釈に注意が必要です。また、オミクロン株の影響として病気で働けなかった人の数は記録的な上昇となっています(図表3参照)。このようなデータの補正にも細心の注意が必要です。平均時給の上昇について気になるのは平均労働時間が減少している点です。これは働けなかった人が多く、時間当たりの時給が上昇した可能性も考えられます。賃金トラッカー(図表1参照)など、他の賃金指標との整合性などを考慮して、金融政策への影響を判断すべきと見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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