Article Title
インド成長重視の予算案に対する期待と不安
梅澤 利文
2022/02/08

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドの22年度(22/23年度などと表記される場合もあるが22年4月~23年3月を22年度と表記)予算案はインフラ投資などを中心に成長重視の姿勢を示しました。コロナ禍で増加した、給付などによる支援からの変化が見られます。しかしながら、インドはインフレ率が警戒水準に近づきつつあることや、債務の健全性に不安もあるだけに今後の展開には注意も必要です。



Article Body Text

インド予算案:成長支援重視の予算案を発表、期待と共に財政への不安もちらつく

インド政府は2022年2月1日、22年度(22年4月~23年3月)予算案を発表しました。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた国内経済の回復を支えるため支出を増やす方針を示しました。シタラマン財務相が議会に提出した予算案の年間支出規模は約39兆4500億ルピー(約60兆円)で、前年度比13%増となります。シタラマン財務相によると、来年度の財政赤字はGDP(国内総生産)比6.4%となる見通しで、市場予想の6.1%を上回ると見込んでいます。

なお、格付け会社のフィッチ・レーティングスは2月7日にインドの予算案について声明を発表しました。短期的には成長をサポートしつつ財政運営への配慮が見られる一方で、中期的な財政の健全性には懸念も示しています。インドの債券市場では22年度予算案の発表を受けて国債などの利回りが上昇(価格は下落)しています(図表1参照)。

どこに注目すべきか:22年度予算案、インフラ投資、財政健全性

まずインドの22年度予算案の主な内容を振り返ります。

22年度予算案の年間支出規模は約39.5兆ルピーで、資本支出は前年比35%増の7.5兆ルピーになる模様です。資本支出の内容は主にインフラ投資で、道路建設、鉄道、通信網の整備などが含まれています。また、資本支出の補助として3.2兆ルピーがあてられ、水道、電力などへの投資も組まれています。

22年度予算案の発表を受けてインド株式市場で建材や水道、通信網などのインフラ関連銘柄が上昇したのは財政政策による押し上げ期待があったと見られます。

一方、債券市場では国債利回りがやや上昇(価格は下落)しました。22年度予算案がインドの財政状況に与える影響に対して当局の配慮がある程度見られますが、市場は債券の発行増加を懸念したようです。また、中期的には財政状況の健全さに疑問も残るようです。

22年度の財政赤字対GDP(国内総生産)比率は6.4%という目標が設定されました。これは同比率の市場予想が6.0~6.3%程度であったことに比べ若干高いものの、前年度(21年度)の推定値6.9%を下回る水準に抑えています。

フィッチの声明を見ても、22年度はインフラ投資などを増額するものの、インド政府が想定する名目GDP成長率の前提は適正で、短期的な財政運営については健全な面もあると分析しているようです。

しかしながら、中期的な財政運営には疑問が残ります。インドの債務残高対GDP比率は足元約87%で、当面高水準での推移が想定されています(図表2参照)。現在主要格付け会社によるインドの格付けはBBB-で、投資適格債ギリギリの水準です。同比率のBBB格の国々の平均は60%台程度です。フィッチはインドの格付けをBBB-としている上、見通しも弱含み(ネガティブ)としています。短期的な懸念は低いとしても、中期的な財政運営についての健全性が求められそうです。

22年度予算案の発表に合わせ、インドはデジタル通貨を来年度に導入する計画も明らかにしました。インド準備銀行(中央銀行)がデジタル・ルピーを段階的に導入するという戦略です。インフラ投資とデジタル戦略で成長を支える意図がうかがえます。ただ、インドの足元のインフレ率は警戒水準に近づいています。今週開催が予定されているインド中銀の金融政策会合でどのような方針が示されるか注意が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応

植田総裁のインタビュー、内容は利上げの地均し?

フランス政局混乱、何が問題で今後どうなるのか?

11月FOMC議事要旨、利下げはゆっくり慎重に

「欧州の病人」とまで言われるドイツの論点整理