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タカ派にやや距離を置くオーストラリアだが
梅澤 利文
2022/02/16

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概要

米国をはじめ、英国、ノルウェー、ニュージーランドなど主な先進国の中央銀行がタカ派(金融引締めを選好)路線にシフトしています。オーストラリア(豪)中銀も例外ではなく、量的金融緩和の終了を発表するなどタカ派シフトを進めています。ただ、インフレ懸念は現段階では低く、雇用市場も一部改善の余地があることから、慎重にタカ派路線にシフトする一面も見られます。



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オーストラリア準備銀行:金融正常化の方針が議事要旨で示される

豪準備銀行(中央銀行)は2022年2月15日に、2月1日に開催された理事会の議事要旨を公表しました。

豪中銀は1日の理事会で国債や州債を大量に購入する量的金融緩和政策の終了を決定しました。インフレ率が上昇傾向となる中(図表1参照)、金融政策の正常化を進める姿勢を示しました。なお、政策金利は市場予想通り過去最低となる0.1%に据え置いています。

どこに注目すべきか:議事要旨、豪中銀、量的金融緩和、賃金動向

まず、2月1日の理事会における決定事項を振り返ると、政策金利は据置きながら、量的金融緩和策は2月10日をもって債券購入プログラムによる債券の新規購入停止が決定されました。また、豪中銀は5月の理事会において、保有債券の再投資の方針を検討するとしています。

次に、議事要旨をもとに量的金融緩和策と政策金利などについて補足します。

量的金融緩和策における債券の新規購入について次の3つの選択肢を議論したことが示されました。①2月半ばから購入額を減額し、5月に終了する、②購入ペースを落としたうえで5月に再検討する、③2月半ばに終了、が選択肢として示されています。結局、すでに保有する債券が景気の下支えとなっており、新規購入は、その役割を終えたとことから③が選択されました。選択肢の中ではもっともタカ派と見えますが、2月における新規購入停止を受けても市場が冷静に受け止めたことを思えば、豪中銀のタカ派シフトはやや慎重であったようにも思われます。

なお、豪国債市場には他国と異なり、次の国債償還が22年7月迄ないという特殊事情があります。そのため、償還による自然減がなかなか起きないことから、再投資の方針を含め5月に検討するとしています。タカ派シフトが著しい米国であっても、保有債券を売却することへの支持は広がりを見せていません。仮に豪中銀が保有資産を売却することを決定したとしても、このような事情を頭に入れておく必要がありそうです。

次に政策金利についての方針です。議事要旨では利上げ時期を忍耐強く待つ姿勢が示されました。市場では足元の消費者物価指数(CPI)が前年同期比で3.5%と豪中銀のインフレ(許容)範囲2~3%を上回る点などから年内利上げを織り込んでいます。豪中銀はCPIから値動きの大きい項目を除外したトリム平均を政策運営で重視しています。しかしトリム平均も2.6%と先の範囲の中間点(2.5%)をおよそ7年振りに上回ったことが議事要旨でも指摘されています。ただ、利上げを判断するにはトリム平均が持続的に今のような水準で推移するか見守りたいという意見もあるようです。

雇用市場に対する見方も分かれています。失業率は足元4.2%と、コロナ禍前を下回る水準です(図表2参照)。失業率は豪雇用市場の回復を示唆していると見られます。しかし、議事要旨では賃金動向を見守る姿勢も示されています。賃金も回復傾向ですが、その水準はコロナ禍前を下回ると議事要旨は指摘しています。失業率が低いことなどから、今後の賃金上昇も想定されますが、豪の雇用慣行により賃金が抑制される可能性も指摘しています。賃金があがらないのではなく、回復の確認に慎重なようにも見られます。

豪経済の回復次第ながら、利上げを抑制する要因の確認の長期化はインフレ懸念を高めるリスクもあり、年後半に向けタカ派姿勢が一段と強まる可能性も考えられそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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